No.5101 (2022年01月29日発行) P.58
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2021-12-23
最終更新日: 2021-12-23
本連載の第1回目(2020年2月)に、私は「アレルギー疾患を予防するためには環境要因や食習慣の関与に注目すること、そして生後なるべく早期から介入すること、の2点が重要である」ということを記載しました。その意味で、離乳食指導に対する認識は、ここ数年で社会的に大きく変化しました。
かつて食物アレルギー予防のためには離乳食を遅らせたほうがよい、と考える風潮がありました。米国でもピーナッツアレルギーを予防するために3歳までは子どものピーナッツ摂取を控えるべき、との米国小児科学会の提言が2000年に出されました。しかしながら逆に、ピーナッツアレルギー発症頻度の増加をまねき、2008年にはその提言が撤回されるに至りました1)。その一方で、2015年以来、食物アレルギーの発症予防を目指したピーナッツ、鶏卵、牛乳などの早期摂取の有効性が次々と報告されるようになり2)〜4)、2017年には日本小児アレルギー学会からも鶏卵早期摂取に関する具体的な提言が出されました5)。2019年に改訂された授乳・離乳支援ガイドでも、離乳開始時期は生後5〜6カ月頃が適当であり「離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせても、食物アレルギーの予防効果があるという科学的根拠はない」と明記されるようになりました。この考え方は日本だけではなく世界中に広まっています6)。
これらの動きを受けて、実際に乳児検診や診療の場面で「適切な時期に早く食べさせたほうがアレルギーになりにくくなる」との指導が広がりつつあります。そうなると注目すべきは、果たしてこのような指導により実際に食物アレルギー有病率が低下していくのか、ということです。東京都が1999年から5年ごとに行っている3歳児全都調査では、食物アレルギーと診断された子どもの割合は1999年の7.9%から2014年の17.1%へと右肩上がりに上昇していましたが、2019年に初めて14.9%と低下傾向を示しました。ただ、この調査は回収率が32.7%と低く、どこまで実態を反映しているかは不明です。果たしてこのような傾向がこれからも続くのか、しばらくは期待感を持って食物アレルギー有病率の変化を注視していきたいと思います。
【文献】
1)Sicherer SH, et al:J Allergy Clin Immunol. 2008;122(1):29-33.
2)Du Toit GD, et al:N Engl J Med. 2015;372(9):803-13.
3)Natsume O, et al:Lancet. 2017;389(10066):276-86.
4)Sakihara T, et al:J Allergy Clin Immunol. 2021;147(1):224-32.
5)福家辰樹, 他:日小児アレルギー会誌. 2017;31(3):i-x.
6)Sampath V, et al:J Allergy Clin Immunol. 2021;148(6):1347-64.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[食物アレルギー]