No.4820 (2016年09月10日発行) P.18
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-16
最終更新日: 2016-10-19
政府の規制緩和は、在宅等での看取りにおける死亡診断書の交付要件も対象になっている。政府は6月、規制改革実施計画を閣議決定し、医師の対面診察によらない死亡診断書交付を要件付きで認める方針を固めた。厚生労働省は具体的な運用を検討した上で、来年度中に必要な措置を講じる見込みだ。
医師のいない地域や医師の確保が困難な地域では、看取りのために住み慣れた場所を離れ、病院や介護施設に入院・入所したり、死後診察を受けるために遺体を長時間保存・長距離搬送する必要がある。そのため日本看護協会や政府の規制改革会議が、「安らかな看取りとはほど遠い状況」「患者や家族が不都合を強いられている」として要件緩和を求めていた。
医師法20条では、「医師は、自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」としている。その上で、「但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りではない」という例外規定を設けている。
今回、死亡診断書交付を認める要件は、①医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されている、②終末期の際の対応について事前の取り決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携が取れており、患者や家族の同意がある、③医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にある、④法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三徴候の確認を含め医師とあらかじめ取り決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できる、⑤看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できる─の5つ。
このうち④には「法医学等に関する一定の教育を受けた看護師」とあるが、医学教育においてさえ看取りに関する教育プログラムはほとんどない。医師法20条、21条を正しく理解している医師は、実は極めて少ないことが分かっている。それを教える側も、教えられる側も「死」や「看取り」には興味がないからである。筆者は医学生や勤務医に「死」や「看取り」の授業を行っているが、市民講座とは対照的に寝ている人が多い。彼らに限らず、多くの医師は「生きさせる医療」には当然興味があるが、「死を支える医療」には総じてあまり興味を示さない。そんな環境下で、看護師に看取りに関する教育を誰が、どうやって行うのかという課題もある。
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