No.5103 (2022年02月12日発行) P.59
西條政幸 (札幌市健康福祉局保健所医療政策担当部長,国立感染症研究所名誉所員)
登録日: 2022-01-24
最終更新日: 2022-01-24
私は2021年3月まで約四半世紀をウイルス研究者として国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部で過ごし、同年4月から札幌市保健福祉局・保健所に異動した。感染研では、致命率の高いウイルス感染症に関する研究に従事してきた。その中には重症急性呼吸器症候群(SARS)や新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)に関する研究も含まれる。
SARSは2002年暮れから2003年6月までと、2003年12月から2004年1月まで、2度流行している。それぞれの流行の原因となったSARS-CoV-1は分子疫学上、異なる遺伝子型のウイルスであることが確認されていることから、私たちは2度の流行を経験した。COVID-19の症状、病態、SARS-CoV-2のウイルス学的特徴を考慮すると、2019年12月に中国湖北省武漢市で発生したと考えられているSARS-CoV-2は、私はSARSの再来と考えている。
私は現在、札幌市保健所でCOVID-19患者の病状や経過を観察して、適切な治療を提供するための作業に従事している。2021年4月から6月にかけて発生した流行(第4波)と同年7月から9月にかけて発生した流行(第5波)は、それぞれアルファ株およびデルタ株によるものであった。第4波のCOVID-19患者全体の致命率は約3%であったが、第5波では市民(特に高齢者)の間でワクチン接種が進んだことから死亡する患者は激減した。ワクチン接種を受けたもののSARS-CoV-2に感染して発症し、経過が長い患者に対して精査目的で胸部CT検査を実施した。そうした患者は比較的多くいるが、肺炎像が認められる患者は少ない印象を持っている。
COVID-19で死亡した患者の病理学的検査報告によると、SARS-CoV-2が膵臓、肝臓、腎臓、睾丸、唾液腺、肺の組織で検出されている。上気道で増殖したSARS-CoV-2が血流を介して各臓器に到達して、そこで病変を引き起こしていることを示している。私は、COVID-19患者における肺炎は、上気道から下気道に徐々にSARS-CoV-2感染が広がった結果ではなく、むしろウイルス血症によりSARS-CoV-2が肺に到達して、そこでウイルスが増殖した結果としての病態ではないかと考えている。そして、COVID-19ワクチンの重症化予防効果は、ワクチンが誘導する免疫(抗体)が、ウイルス血症を阻止することで得られる効果によると考えている。COVID-19はSARS-CoV-2による全身感染症であり、単なる呼吸器感染症ではなく、肺炎は病態のひとつにすぎない。
COVID-19流行に強い社会にするためには、1人でも多くの方々がワクチン接種を受け、定期的にワクチン接種を受けられるシステムを構築することが必要である。改めてワクチン接種の大切さを強調したい。
西條政幸(札幌市健康福祉局保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)[新型コロナウイルス感染症]