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【識者の眼】「大阪府の新型コロナ死者が多い理由」倉原 優

No.5106 (2022年03月05日発行) P.54

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)

登録日: 2022-02-18

最終更新日: 2022-02-18

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SNSでは、大阪府だけなぜ他の地域よりも人口あたりの新型コロナ感染者・死者が多いのかという議論がなされていた。議論というよりも、自治体トップに対する不平不満がほとんどだったが。

大阪府新型コロナウイルス対策本部会議1)によると、大阪府の医療提供体制が逼迫している理由は、高齢者の感染者が多いことを一番に挙げている。また、これには多くのクラスター発生が影響している。実際、軽症中等症受入医療機関における入院患者数の年代別割合は、70代以上が全体の8割に上っており、東京都の約5割よりもはるかに多い。これにより、感染者あたりの死者数の割合が多くなっているという見解だ。

その他、交絡している要因はいろいろある。たとえば、施策にも自治体ごとに幾許かの差がある。大阪府の第4波における医療逼迫は他地域よりもひどいものだったが、第5波に関しては関東より影響が少なく、そして第6波については再び大阪が逼迫した。第4波については、2021年1月、大阪に出された2回目となる緊急事態宣言を当初の予定より前倒しの2月末で解除を要請した。結果的に東京よりも3週間早い緩和になり、それを待っていたかのようにアルファ株が関西を襲った。第6波については、まん延防止等重点措置は東京都などから1週間程度遅れて発出されている。そうこうしているうちにオミクロン株の波に飲まれた。

大阪府特有の事情もあるかもしれない。たとえば、結核は全国平均10万人あたり10.1人に対して、大阪府では15.8人と1.5倍以上多い罹患率を有する。大阪市が抱える西成区の罹患率が突出して高い状況であることが理由で、過去この地域は日雇い労働者などが多数集まることで結核罹患率を集中的に上昇させてきた歴史があり、社会的な弱者がまだまだ多い。さらに、この地域は健康寿命がきわめて短いことでも知られており、健康不安を抱えた人たちがかなり集まっている。

要因のマイナスをすべて加味しても、あのような数値にはならないという指摘もあるが、いずれにしても波が落ち着けば、行政ごとに振り返る作業は重要と考えられる。

【文献】

1)第69回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議.

   https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/69kaigi.html

倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS][新型コロナウイルス感染症]

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