No.5113 (2022年04月23日発行) P.63
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2022-03-23
最終更新日: 2022-03-23
最近、クリニックの事業承継のご相談が増えています。今後もアーリーリタイヤなどを背景に、クリニックの事業承継が増えるでしょう。実際私自身も、2019年、高齢を理由にリタイヤされる先生から医療法人の承継を受け、最近までクリニックの理事として経営を行っていました。電子カルテへの移行や診察フローの改善、果ては受付業務、レセプト請求と様々な経験をすることができました。開院に間に合わせるため、クリニックに泊まり込んで作業をしたのはいい思い出です。
ただ、クリニックの事業承継は決して単純なものではありません。個人事業としてのクリニックの承継であれば、事業譲渡という体裁はとっているものの、実質的には売買的な側面が強いです。許認可関係も新たに取り直すことになるので、承継前のクリニックの経営状況による影響はあまり受けません。
一方、医療法人を承継する場合、社員(従業員という意味ではなく、株式会社でいうところの株主と近い立場です)や理事を入れ替えるという形で、医療法人そのものを引き継ぐことが多いです。私が事業承継を受けたケースでも、私が社員兼理事になることで、当該法人を引き継ぎました。この場合、個人事業のケースと違い、許認可関係や契約関係をそのまま引き継ぐため、新たに許認可関係を取り直したり、個々の契約の引継ぎを行わなくともよいという点にメリットがあります。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、リスクについても引き継いでしまうということです。たとえば、スタッフとのトラブル、医療事故を含む患者とのトラブル、個別指導による自主返還といったものが考えられます。そのため、買い手側は事前にデューデリジェンス(以下、DD)と呼ばれる調査を行います。私が担当しているだけでも、複数のDD案件が同時に動いている状況です。DDでは、現院長や従業員、事務長にヒアリングを行い、リスクがないか、あってもコントロール可能なものかを判断します。場合によっては、譲渡されるまでに当該リスクに対応するよう求めたり、譲渡契約にリスクを管理する条項を盛り込んだり、譲渡価格を調整したりといった対応を行います。
とは言え、最終的には売り手側と買い手側の信頼関係によるところも大きいと感じています。現院長が、従業員と一丸となり、患者のためを考えた診療を行っているかどうかという点がきわめて重要でしょう。私も買い手側の代理人としてDDを行う場合、リスク管理という観点だけでなく、現院長が何を大事にしてこられたのか、という点も重視してヒアリングするようにしています。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]