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【識者の眼】「パンデミック対策と地域医療構想」島田和幸

No.5117 (2022年05月21日発行) P.60

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2022-04-18

最終更新日: 2022-04-18

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今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに際して各医療機関がどのように対応するかは、各医療機関の自主的判断に任されました。公的地域中核病院である本院は、「感染症と通常診療の両立」および「大学、近隣病院、医師会や行政機関との緊密な連携」を基本方針としました。本院は、入院患者の対象は中等症Ⅱまでとし、COVID-19肺炎の重症化予防に努め、人工呼吸器やECMOを要するときは近隣高次医療機関に転送しました。

本院では、1病棟29床のうち、人的資源から18床をCOVID-19に対して確保し、残り11床を休床としました。感染ピーク時は、確保病床を高回転し、100%以上の稼働でした。しかし、地域全体では、“確保”病床の50〜60%程度の稼働状態で「医療逼迫」とされました。すなわち、実際には水増しされた確保病床(幽霊病床)だったわけです。

通常診療と感染症診療は、どちらかを立てれば他が犠牲になるという綱引きになり、各医療機関それぞれの事情が存在します。

今回のパンデミックは、地域全体で各医療機関が役割分担して、COVID-19と通常疾患の診療体制を構築することが求められました。そのためには、各医療機関が通常診療とCOVID-19診療のお互いの手の内を正直にさらけ出して、地域全体の医療を構想する場が必要となります。実際にそのような場を形成し、日々の各医療機関の状況を詳細に公表して、パンデミックという非常時の医療体制をつくり上げた地域もあるようです。また、国が感染症診療に対して注ぎ込んだ緊急包括支援交付金は、結果としてCOVID-19発生前に比して減少した分の補填以上でした。幽霊病床の出現とともに、費用対効果という観点からは検証の対象となります。

この考え方は、現在進行中の平時の地域医療構想と何ら変わりません。パンデミック対策は、感染症の軽、中等、重症の役割分担です。一方、地域医療構想は、急性期、回復期、慢性期の役割分担です。各医療機関がお互いの手の内をさらけ出し、地域の現状を共有する。その上で地域全体の最適化を目的に役割分担を構想します。その際に投入される財政措置などの費用対効果を検証することも同じです。各医療機関の個々の自主判断に任せておくだけでは、地域の目標と現状を共有することはできず、地域医療構想は永久に文字通り“構想”に終わってしまうのではないでしょうか。

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[パンデミック][確保病床][地域医療構想]

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