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【識者の眼】「砲弾の破壊力」鈴木隆雄

No.5118 (2022年05月28日発行) P.59

鈴木隆雄 (Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)

登録日: 2022-05-06

最終更新日: 2022-05-06

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随分昔の話。イラン・イラク戦争中のイラク・バグダッドに赴任して間もない頃。毎朝ジョギングをしていたが、その朝は二日酔いでどうするか迷っていたら、ドーンと宿舎が大きく揺れた。こんな平地でも地震があるのかと驚いた。出勤時間となり病院に行くと、皆が大騒ぎしていた。イランからのスカッドミサイルが近くに着弾したのだ。仕事後、着弾場所を見に行った。場所は宿舎から500メートルほど離れたチグリス川のたもと。レンガづくりの3階建ての家が半壊していた。でも隣の家は無傷。死傷者は家にいた5人前後。遙かイランからミサイルを飛ばして、破壊できたのはこれだけ。

アフガニスタン・カブールには、タリバン政権が北のマスウードと戦っている頃に赴任。頻繁にマスウード側からカチューシャロケットがカブールに着弾した。もちろんタリバンからもロケットを飛ばしていた。最初は着弾するたびに数を数えていたが、20近くでやめた。この時で一番死傷者が多かったのは人が密集している地域で50人強、大抵はいつも10人前後だった。

ある時、爆弾処理のプロと話す機会があった。「正直言って、爆弾とか砲弾というのはそれほど破壊力ないですね」と聞いてみた。彼は「その通り。着弾の真下にいないかぎり、即死にはなりにくい。ただ、砲弾が落ちてくる時の音が非常に恐怖心を引き起こす」と。恐怖心だけでは、武器として役立つのかと疑問に思った。

砲弾に火薬を使うかぎり、爆発時の破壊力はしれている。一般的榴弾砲の威力は、着弾地から半径100メートルも離れると、致命傷にはなりにくい。爆発した砲弾の破片は、拳銃の低速銃弾と同じで、速度が遅く破壊力は弱い。小銃の高速銃弾だと500メートル離れた場所でも受傷すれば主要血管系では即死、その他、筋肉・皮膚以外の臓器でも重症となる。しかし、高速銃弾はコンクリート壁を通過しない。

砲弾は建物を破壊するだけ、小銃は建物を通過できない。これが通常兵器の実力。

鈴木隆雄(Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)[戦争][通常兵器]

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