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【識者の眼】「医学部入試女性差別問題に対する東京地裁判決」野村幸世

No.5121 (2022年06月18日発行) P.61

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2022-05-27

最終更新日: 2022-05-27

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5月19日、医学部入試女性差別問題に関する集団訴訟で初の判決が東京地裁から順天堂大学に対して、賠償命令として出された。消費者機構日本が確定させた受験料の返還義務に加え、今回は、13人の原告に対して、計805万円を慰謝料などとして支払う判決である。

慰謝料が必要な差別的扱いであった、という判決は評価できると思うが、その金額は少なすぎるように思う。

順天堂大学医学部は、2018年には男性の合格率が女性の2倍ほど高かったが、2018年に東京医大問題として、この問題が発覚して以降、改善し、2019年には女性の合格率が男性の合格率を上回っている。事実を公開し、すぐに改善したところは評価できると、私も思うが、改善前の女性受験生に時間とチャンスは戻っては来ないであろう。

このような訴訟のときの慰謝料の決め方というものをよく知っているわけではないが、費やして無駄になった費用や時間を加味して決められるのであろうか? しかし、費用や時間よりも、その人間が持っていた夢や希望が不当に失われたことの損失は計り知れないものがあると私は思う。

誰しも、心が健全な人間は将来へ向けて夢を持ち、その実現のために努力をしていると思う。その夢がすべて実現できるわけではない。それでも、その夢ができるだけ実現できるように考え、協力していくのが周囲の人間であろう。夢の実現には当然、競争もつきものである。競争に勝たなければ、実現できない夢は多い。「医師になりたい」という夢はその中でも決して軽いものではなく、多大な努力と自己犠牲を払ってでも、社会に貢献しようという崇高な夢である。だからこそ、競争は正当なものでなくてはならない。

入試だけの問題ではない。仕事に就いてからも、上司から部下への仕事の配分に部下の性別による差別があるという報告はある。医療業界の報告で、女性の上司は部下の性別にかかわらず平等に仕事の機会を与えるが、男性の上司は女性の部下に仕事の機会を少なくしか与えないという報告がある。

これらの問題に限らず、日本の社会においては、人に対する差別や不当な扱いが軽く考えられすぎているように思う。不当に扱われた者がどれだけ心に痛手を負い、やる気が減衰し、ひいては社会の損失にもつながっているかを考えて行動したいものである。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[性差別]

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