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コロナ下の解剖事情[提言]

No.5121 (2022年06月18日発行) P.56

石原憲治 (千葉大学大学院医学研究院法医学客員教授/京都府立医科大学法医学客員教授)

岩瀬博太郎 (千葉大学大学院医学研究院法医学教授/東京大学大学院医学系研究科法医学教授)

登録日: 2022-06-15

最終更新日: 2022-06-14

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  • 〔要旨〕2020年から現在(2022年3月)に至るまで,わが国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大への対応に終始し,法医学の現場でも様々な影響があった。N95マスクなど消耗品の入手が困難になる中,十分な感染症対策がとられている解剖室は少なく,各施設ではその対応に苦慮した。本稿では,そのような状況下での法医解剖数の動向などについて,報告したい。

    1 2020年の法医解剖数

    表1に都道府県別の警察取扱死体の解剖数を示す。解剖総数をみると,1000件以上減少している。特に神奈川県と大阪府で大きく減っているが,これは,警察または知事部局の方針であると推察できる。内訳をみると,“その他の解剖”(広義の行政解剖)だけでなく,司法解剖と,「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(以下,死因身元調査法)に基づく解剖(以下,調査法解剖)も減少したが,この減少幅は,過去にさかのぼっても,例はない。その原因を推測すると,やはりCOVID-19の影響がみえてくる。

    なお,高齢社会にあって死亡者数は年々増加していたが,2020年分については11年ぶりに減少した。その原因は,マスクや消毒の励行による衛生状況の向上とも言われているが,確証はない。死亡者数自体の減少が,解剖数の減少と関係はあるかもしれない。また,外出自粛や飲食店での酒類提供禁止のため,事故などの外因死が減ったのではないか,という指摘もある。あるいは,感染の可能性があるご遺体について,警察が解剖になかなか回せなかったのではないかとの推測もある。いずれにせよ,原因の追究は,今後の検討に委ねられるだろう。

    さて,表1の調査法解剖をみると,上位4都県(神奈川県,東京都,兵庫県,沖縄県)で全体の約64%を占めている。東京都,兵庫県には監察医制度があり,神奈川県も近年廃止したものの元監察医らによる解剖が続いているし,沖縄県はこれまで通り高い解剖率を維持している。つまり,この4都県は従来,解剖率が高い地域(2020年で全国1~4位)であり,新しい法医解剖制度(調査法解剖)ができたことによって,解剖率の地域格差は拡大したと言える。ただ,解剖率の多寡が死因究明の精度をそのまま表しているのではないということは,指摘しなければならない。死因究明の充実を示す指標としては,解剖の質,各種検査の充実度等,様々な要素があるが,解剖率はその指標のひとつにすぎないという点には,注意を要する。

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