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【識者の眼】「総合診療医にとって婦人科の臨床経験は絶対必要」谷口 恭

No.5125 (2022年07月16日発行) P.67

谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)

登録日: 2022-06-30

最終更新日: 2022-06-30

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「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第6回目。 

研修医生活もいよいよあと残り3カ月を切ろうとしていた頃、僕はそのとき研修を受けていた循環器内科の先生、次いで婦人科の先生に掛け合って、当初のカリキュラムにはなかった婦人科での研修を内科研修と並行して受けることを認めてもらった。結果的にこの選択は正しかった。婦人科の基本的な知識と経験がなければ総合診療を行うことはできない。早い段階で婦人科研修は絶対に必要なのだ。

既に小児科の研修を終えていた僕は、救急外来にどのような症状の小児患者が受診しても初期対応はできる自信ができていた。だが、婦人科疾患はそうはいかない。腹痛を訴える患者自身が思ってもいなかった婦人科疾患、たとえば卵巣出血や子宮外妊娠が原因ということもあるし、慢性疾患が月経周期に影響を受けていることなどザラにある。教科書を読みなおし論文を抄読したところで臨床ができるようになるわけではない。

その後、研修医生活を終えてから、性感染症で高名な先生の下で学ぶ機会を得た。婦人科での研修のおかげで毎日30〜50例ほどの内診が必要な症例を3カ月間担当させてもらい、多くの疾患を学ぶことができた。その後、大学の総合診療部に入局したときも婦人科出身の先生から積極的に学ぶようにした。

都心部の総合診療の現場では患者の多くは若年者で、その半数は女性だ。緊急避妊や性暴力の被害といった事例もあれば、性感染症、月経移動、OC/LEPの処方、月経困難症といった訴えは日常茶飯事だし、頭痛、めまい、消化器症状といった慢性の症状、あるいは不定愁訴が月経に関連していることも少なくない。初診で慢性症状を訴える女性患者に対しては月経周期との関連を必ず尋ねるべきだし、閉経前後の患者に対しては更年期障害の診療も視野に入れねばならない。

以前、地域医療に多大なる貢献をされているあるベテランの総合内科医の先生から「自分には婦人科での研修経験はなく、これまでさほど必要性を感じたこともない」という話を聞いて驚いたがすぐに納得した。この先生が日頃診察しているのは高齢者が大半なのだ。一方、僕が実践している都心部での総合診療は若年者が多い。都心部での総合診療に興味のある若い先生には是非婦人科での経験を早い段階で積んでもらいたい。

谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[都心部の総合診療]

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