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【識者の眼】「制吐薬ノバミンはアカシジアに注意」上田 諭

No.5127 (2022年07月30日発行) P.62

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-07-01

最終更新日: 2022-07-01

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内臓の癌のために通院治療中だという70歳代の男性が、不眠のために精神科外来を受診された。数カ月前から、夜ふとんに入ると脚がむずむずしてじっとしていられず、どうしても眠れない、という。男性は「脚がうずく」と訴えた。寝不足で日中も頭がぼんやりしてしまい、仕事や生活にも支障がある。担当医に相談すると、エチゾラムやブロチゾラムを処方されたが、1日しか効果がなかったという。

最初は、むずむず脚症候群を疑った。腎障害の疑いがあり鉄欠乏性貧血や糖尿病が原因になっていないかと考えたが、それらは該当しなかった。

内服薬をチェックすると、非常に疑わしい原因がみつかった。がんの疼痛に対し2種のオピオイドが処方されており、その副作用と思われる吐き気や胸やけに対して、プロクロルペラジン(商品名:ノバミン)が3錠分3で処方されていた。開始時期が、ちょうど脚がうずいて眠れなくなりはじめた時期とぴたりと一致していた。症状は、この薬剤の副作用によるアカシジアの可能性が大きいと診断した。

アカシジアは、抗精神病薬による副作用として生じる下肢のむずむず感、じっとしていられない、脚を動かさずにいられない、という症状で、夜間に増悪し不眠の原因となる。パーキンソニズムと同じく錐体外路症状のひとつである。下肢の感覚に加えて不安焦燥感も強まり、患者の苦痛は大きい。苦痛と不眠が続くと、希死念慮を生じて突発的な行動に至ることもある。

ハロペリドールを代表とする抗精神病薬で生じることは比較的知られているが、原因薬剤としてプロクロルペラジンは見逃されやすい。がん診療では制吐薬として非常に有名で、抗精神病薬という意識がほとんどないためだ。症状が出ると、単なる不眠症と思われたり、精神疾患の症状だと誤診されたりしやすい。

治療は、原因薬剤の中止である。対症療法としては、抗不安薬クロナゼパムや抗コリン薬ビペリデンを投与する方法があるが、高齢者にビペリデンはせん妄を生じるリスクがあり、十分注意を要する。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[がん治療]

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