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【識者の眼】「令和の大仏開眼」神野正博

No.5127 (2022年07月30日発行) P.59

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2022-07-04

最終更新日: 2022-07-04

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日本経済新聞朝刊の連載小説は、直木賞作家・安部龍太郎作の『ふりさけ見れば』だ。遣唐使として唐に渡り、密命を帯びて帰国を断念した阿倍仲麻呂と奈良の都に帰国した吉備真備の葛藤を、玄宗皇帝、楊貴妃、安禄山、聖武天皇など有名人?! を絡ませながらダイナミックに話が進む。

その中で、奈良の都を襲った天然痘禍の行(くだり)がある。遣唐使船ないしは朝鮮交易によって持ち込まれたとされる天然痘によって、主人公真備に絡む藤原四兄弟をはじめ、なんと日本の総人口の約3割が悲惨に亡くなっていく。

実際、当時の全国の総人口は約450万人。正倉院文書に残る諸国の正税帳(財政報告書)から死亡者の比率が推計できるといい、和泉国で人口の45%が亡くなるなど、全国で人口の1/4〜1/3にあたる100万〜150万人が死亡したとされるのだ。

聖武天皇は、この人口減に伴う労働力不足の中、食料増産と税収の改善を目的に、墾田永年私財法を定め、新たな墾田は私有権も認めながら税金を納める方式に改め荘園を誕生させた。そして、その税収を原資としてこの悪疫退散の願いを込めて仏教で国の礎を変えることにしたという。すなわち、今に残る国分寺を各国に配し、そして奈良の東大寺に毘盧舎那仏、大仏を建造、開眼したのだ。この一大プロジェクトに掛けるパワーたるもの幾何のものであっただろうか。

悪疫の経験を越えて、国家の形態を変えその後の時代の礎を創る。その奈良の気概をこの令和の時代の為政者に求めることはできないものか。そして、令和の大仏を何に求めるのか。

私は、個人番号管理とその有効利用に尽きると思う。Government as serviceとして、すべての行政手続をオンライン化し、マイナンバーカードをIDカードとして、パスポート、健康保険証、銀行口座へのログイン証明書、運転免許証、選挙における電子投票、医療記録の確認、税務申告など、一気呵成に進めるべきだ。個人の情報がオンライン上にあるということは、災害時や緊急時においての安全保障となる。そして、何よりも非接触だ。

今こそ、コロナ禍を通して露呈した不都合を思い切って見直す時期ではなかろうか。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[マイナンバーカード]

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