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【識者の眼】「スモン事件の教訓を忘れてはならない」宮坂信之

No.5145 (2022年12月03日発行) P.62

宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)

登録日: 2022-10-18

最終更新日: 2022-10-18

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スモンはよく使われる医学用語である。しかし、スモンをよく知っている人が医療関係者にどれだけいるだろうか?

スモンはsubacute myelo-optico neuropathy (SMON)の頭文字である。下痢・腹痛などの消化器症状に引き続いて痙性麻痺、視力障害などが起こり、当時は奇病と言われた。キノホルム(商品名)(一般名:クリオキノール)との因果関係が明らかとなったのは、10年以上経過した後である。スモンの患者さんが緑色舌を呈するのと緑色便が出ることに気づいたのがきっかけであるが、患者に立ち返る基本を忘れてはならない。

キノホルムと発症には用量依存性もあり、医薬品との因果関係が示唆された。このため、1971年からは国から治療費の一部が患者に補助された。さらにキノホルムを含む同種同効品の発売を中止したところ、なんと患者数が激減・消失した。これを契機に医薬品救済の概念が始まり、今の医薬品医療機器総合機構(PMDA)ができ、国による医薬品に対する救済業務が行われるようになった。医薬品に対して米国では自己責任、do it yourself(DIY)でやるのに対して、これは日本独特のシステムである。

キノホルムは1899年にスイスで殺菌用の塗り薬として開発されたが、その後、整腸剤として適応拡大された。1935年に外国でスモンを疑われる症例が出たこともあり、一時は日本も劇薬に指定した。しかし、下痢は兵士の最大の敵であったこともあり、第3相試験が行われずに他の薬剤とともに一括承認されてしまった。第二次大戦直後のことであったが、大きな間違いのもとだった。その前にはサリドマイド事件があり、その後には血液製剤によるHIV(human immunodeficiency virus)事件が起こったことは耳目に新しい。

スモン事件は未だに医療関係者にとっては教訓的な事件であり、忘れてはならない。

宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[薬害/副作用]

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