No.5151 (2023年01月14日発行) P.60
谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)
登録日: 2022-12-21
最終更新日: 2022-12-21
「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の最終回。
「集患」という言葉の意味を初めて知ったときは驚き、そして怒りを覚えた。世間には「診てもらえる医療機関がない」「医師に診察を拒否された」と嘆く患者が溢れていることをまったく意に介していない表現だからだ。
2020年1月31日、当院から遠く離れた中核病院から「中国帰りの発熱患者を診てもらえないか」と電話がかかってきた。患者は近くのクリニックのすべてから診療を拒否されその病院を頼ったのだが、紹介状がない単なる発熱患者を病院では診られない。そこで、その病院が当院に依頼してきたのだ。住所は当院からかなり遠いが、他のどこからも診療を拒否されているのなら診るしかない。この事例が当院の発熱外来第1号となった。
その後、「コロナかもしれないのにどこからも診てもらえない」という悲鳴のような電話が鳴りやまなくなった。「信頼していたかかりつけ医から『診察を受けたいなら自分で他を探せ』と言われた」という訴えを聞いて耳を疑った。日頃自身が診ている患者が苦しんでいるのに「自分で探せ」はあまりにも残酷ではないか。
SARS-CoV-2のワクチンが登場し、やがて新型コロナウイルス感染症は軽症化しはじめた。「発熱外来」に補助金が出るようになり、新型コロナウイルス感染症を診る医療機関が急激に増えた。だが、補助金とは無関係だからなのか、新型コロナウイルス感染後の後遺症やワクチンの長引く副反応を診る医師はきわめて少なく、多くの患者が路頭に迷っている。
日本語が話せない外国人はたとえ英語がネイティブであっても受診を拒否される。どういうわけか英語のウェブサイトを持つ医療機関でさえも診てもらえないことが多い。HIV陽性者はviral loadが検出されない状態であっても診療拒否する医療機関が未だに少なくない。薬物依存の既往があれば、たとえ現在薬物を断っていたとしても診てもらえず、精神科からさえも拒否される。
不定愁訴やmedically unexplained symptomsと呼ばれる訴えの患者は、大抵医療機関を受診して不快な思いをしている。ドクターショッピングは説明不足の医師にも責任があるのだ。
「集患」という言葉を使う者に尋ねてみたい。「集めたい患者」とは自身にとって「都合のいい患者」ではないのか、と。「医師は過剰」などと、いったい誰が言いだしたのか。
谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[集患]