No.5152 (2023年01月21日発行) P.63
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)
登録日: 2022-12-22
最終更新日: 2022-12-22
2022年1〜9月の出生数は60万人と前年より3万人少なくなり、2022年の出生数は80万人を下回ることが予想されている(人口動態統計速報11月25日)。国による少子化対策として、2022年4月の出産者より出産・子育て応援ギフト(交付金)約10万円のクーポン券の提供、子育て世代包括支援センターなどでの伴走型相談支援、2023年4月から42万円の出産育児一時金を50万円に増額することが決定された。お産の現場からは、さらに以下のような少子化対策が求められていると感じる。
出生動向基本調査で夫婦に尋ねた理想的な子どもの数は「2.32人」だったのに対して、実際の子ども数は1.68人であり、その理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であった1)。出産一時金など分娩費用の助成に加えて、子育てへの長期的な経済支援がさらに必要である。
日本は米国、英国、フランス、ドイツなどと比較して、女性の家事・育児時間が圧倒的に長く(7時間34分/日)、男性は圧倒的に少ない(1時間23分/日)2)。男性が育児・家事に参加せず女性だけの負担が増える現状では、もう1人子どもを育てるのは困難である。母親のワンオペの解消には、男性の育児参加に加えてベビーシッターや産後ケア施設を誰もが自由に使えるよう経済的にも物理的にもハードルを下げる必要がある。
2022年4月から育児休業の研修や相談窓口の設置が企業に義務化され、10月から産後パパ育休が新設された3)。しかしSNSでは「育休をとっても家でダラダラしているだけ」という不満の声も多く聞こえる。男性は育休前に育児に関する知識やスキルを取得する必要があり、分娩施設や企業で父親学級や育児教室の提供が必要である。
女性は妊娠するという理由で重役に選ばなかったり、時短勤務者を差別したり、ベビーカーや子どもを迷惑がる社会では少子化の改善は難しい。育児と仕事との両立では、「希望する」保育所やこども園に全入できるよう保育士の労働環境や報酬の充実、「小1の壁」を解消するための学童期の子ども教室や児童クラブの充実も必要である。
【文献】
1)内閣府:令和4年版 少子化社会対策白.
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2022/r04pdfhonpen/r04honpen.html
2)男女共同参画局:男女共同参画白書 令和2年版.
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-c01-02-2.html
3)厚生労働省:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内.
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[出生数80万人割れ]