No.5157 (2023年02月25日発行) P.65
細野晃弘 (名古屋市立大学大学院公衆衛生学分野研究員・非常勤講師)
登録日: 2023-02-20
新型インフルエンザが大規模流行した2009/10シーズンにおいて、当初行われていた全数把握・全数届出は国内流入後およそ半年で廃止となり、定点届出と病原体定点届出制度を用いてインフルエンザウイルスのデータ収集を行っていました。
コロナとインフルエンザの差、これはウイルスの変異による免疫回避性です。インフルエンザは1シーズン当たり変異による再流行を起こしませんが、コロナは違います。だから違う取り扱いが必要なのだ、という論理は理解できなくはありません。過去、免疫回避性を起こす変異株が登場し、これと置き換わってから流行が始まっています(第8波は違いますが)1)。
したがって今後もウイルス分離検査は新規流行を探知するためには重要ですが、それが患者全数把握とつながるかどうかは疑問だと考えます。全数把握は、疾患が少なすぎて定点届出により標本代表性が担保できない場合に行われるべきものだからです。もしくは、公衆衛生的に「全滅させなければならない疾患」かです。4類または5類感染症の全数把握感染症、例えば、麻しん、HIV、風しん、狂犬病ですが、これらはいずれも、このどちらか、または両方に該当しています。
オミクロン株流行以降、コロナは全滅政策が採られていませんし、標本代表性が損なわれるほど患者数が少ないわけでもないと考えます。従って、ウイルス変異の探知を行うためのサーベイランスシステム構築は必要と考えますが、全数届出を維持する必要はなく、いずれも感染症定点によるもので十分であると考えます。
【文献】
1)名古屋市衛生研究所:LABOレター 2号.(令和4年9月)
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/cmsfiles/contents/0000146/146852/Labo2.pdf
細野晃弘(名古屋市立大学大学院公衆衛生学分野研究員・非常勤講師)