No.5159 (2023年03月11日発行) P.65
坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)
登録日: 2023-02-21
最終更新日: 2023-02-21
今年から「識者の眼」を担当することになりました、小児科医の坂本昌彦と申します。長野県の佐久総合病院・佐久医療センターで働いています。専門は小児救急・渡航医学ですが、最近は院外で子どもの健康に関する情報提供など保護者啓発のお仕事もしています。連載ではそのような話題を中心にお届けできればと思います。
さて、昨今保護者啓発と言えば、デジタルメディアの話は切っても切れません。
インターネットなどデジタルメディアのコンテンツはますます豊富になり、健康情報を求めるためにも利用されています。2歳未満の子を持つ保護者の90%以上が子どもの健康や発達の情報を得るためにメディアを利用しているとの報告もあります。
デジタルメディアのひとつ、アプリについても同様です。最近は健康情報に関するアプリも増えており、実際、海外ではアプリを介した医療啓発のプロジェクトも出ています。特に妊娠関連でその取り組みは進んでおり、妊婦さんに従来の紙媒体による情報提供に加え、アプリを介した情報提供を行ったところ産後うつが減ったとの報告等があります。小児についても、不慮のケガの防止に関して、未就学児の保護者の安全行動を大幅に改善したとの報告や、母子手帳アプリの利便性や有効性を指摘する報告も増えています。
その一方で、アプリによっては十分な質が担保されていない懸念もあります。ある研究では、乳児用授乳アプリの品質を評価したところ、対象とした26件すべてで質が不十分だったと報告しています。保護者は健康情報を扱うアプリに対して、「広告が内容を偏らせているのでは」などの不安を感じている点も指摘されています。
デジタル社会では、保護者が期待する利便性と正確な医療情報のバランスがとれた良質なコンテンツが求められています。そして、その内容に専門家である小児科医をはじめとする医療者が積極的に関わることは、保護者のヘルスリテラシーを向上させ、ひいては安心して子育てができる環境を作る上でも非常に重要だと考えています。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[デジタルメディア][アプリの品質評価]