〔要旨〕新型コロナウイルス感染症のパンデミックはなかなか収束に至らず,いまだに予断を許さないものの,現状では,できるだけ強い行動規制を避け社会経済活動を継続しつつ,いかに感染拡大を抑えるか,という点でコンセンサスを得ているかと思われる。いずれにせよ今般の出来事は,わが国の死因究明全般にも,また法医解剖の現場にも様々な影響を与えてきた。今後の新たな株や別種の新興感染症の流行の可能性も考慮しつつ,本誌No.5121(2022/6/18)の拙稿に続き,その後の展開について報告し,提言したい。
表1は,ここ3年間の死因についてまとめたものである。主要な死因に加え,考慮の対象になるものを計上した。死亡者総数については,以前より増加傾向がある中,2020年は珍しく減少したが,2021年はその反動も含め増加に戻った。各死因については,インフルエンザは激減,肺炎は減少,老衰が増加した。自殺もしばらく減少傾向が続いたものの,ここにきてやや増加した。他殺は長年の減少傾向が続き,特に2020年は最低となっているし,不慮の事故も同様に2020年は近年で最低となっている。
わが国の死因統計については,その不正確さが以前から指摘されており,自他殺など,警察庁の統計との差が大きいのは以前から問題視されているし,新型コロナ感染症をみても,厚生労働省(厚労省)が感染症法に基づいて集計した死者は,2021年は1万4962人であるのに対し,死亡診断書,死体検案書といった医師法に基づいた死因は1万6771人と,1809人もの差となっている。この原因の推察はここでは行わないが,どこかに統計の不備あるいは遅延があることは間違いないだろう。ただ,いろいろ問題はあっても,人口動態統計によって全体の趨勢を摑むことは可能であり,随所にコロナの影響が垣間見られる。
老衰の増加は高齢社会への移行の副産物との側面も強いが,ここでも,感染を恐れ入院したがらない,あるいはコロナ病床が増えたため入院の機会が減るなどで,自宅あるいは介護施設での老衰が増加したとの推測もできる。肺炎の減少については,日本病院会の相澤孝夫会長の「新型コロナ対策でマスクをつけ,手洗いを徹底するようになった。そのため肺炎につながるウイルスなどの感染を防ぐことができ,死者数の減少につながったのだろう」という意見がある(医療サイト朝日新聞アピタル,2021.2.22)一方,2017年より肺炎と誤嚥性肺炎を別の死因にしたこと,さらには老衰という死因が書きやすくなったことといった,最近の動向に関する一般的な指摘もある(同上)。
不慮の事故や他殺の減少も,特に2020年は行動抑制の影響が大きかったのではないか,との推察もあるし,自殺の増加は,若年の女性を中心にコロナによる失業など経済的,精神的影響の大きさが指摘されている(日経WOMAN,2021.01.29)。