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【識者の眼】「医療法人の老健に所属するケアマネジャーが負う情報提供義務」山下慎一

No.5164 (2023年04月15日発行) P.59

山下慎一 (福岡大学法学部教授)

登録日: 2023-03-31

最終更新日: 2023-03-31

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こんにちは、山下です。今回は、医療法人のケアマネジャーが負う情報提供義務についての判決をご紹介します。

この判決は、2021年10月27日に東京高等裁判所が出したものです。ある医療法人財団が、介護老人保健施設(老健)を運営していました。96歳のXさんがこの老健を利用するにあたり、Xさんの長女Aさんは、老健に所属するケアマネジャーと支援相談員から重要事項説明書のひと通りの説明を受けたうえで、この老健と利用契約を結びました。重要事項説明書には、収入が低い利用者の食費と居住費を減額する「負担限度額認定」の説明が細かい字で記載されていましたが、ケアマネジャーたちはAさんに対して、この記載を教えたり、具体的に説明したりはしませんでした。

Xさんの収入は低額の公的年金のみだったため、老健の通常の利用料金を支払うことが困難な状況でした。そのためAさんは、老健のケアマネジャーたちに、「高額の利用料金の負担は厳しいので、何とか安くなる方法はないか」という趣旨のことを繰り返し尋ねていました。しかしケアマネジャーたちから、上記の負担限度額認定のしくみを説明されなかったため、通常料金を払い続けました。3年ほど経って、負担限度額認定のしくみを知ったAさんは、ケアマネジャーが制度の説明をしなかったから過大な料金を支払ったと主張し、これまで支払った金額と、負担限度額認定を受けていた場合の金額の差額の賠償を求めて、老健を運営する医療法人財団を相手に裁判を起こしました。

第1審の東京地裁ではXさん側が敗訴しましたが、控訴審の東京高裁はXさん側の主張を認めます。東京高裁は、ケアマネジャーの介護保険法上の位置づけや、利用者の知識量を考えると、ケアマネジャーたちは「利用料金の支払額という契約の要素に当たる重要な事項について説明を怠り、利用契約締結に付随する信義則上の義務に違反」した、と述べました。契約を結ぶに際して誠実に説明をする法的義務がある、ということです。ただしXさん側にも落ち度があるとして、本来の差額162万円から3割が減額され、認められた賠償金の額は113万円になりました。

この判決は、読者の皆さんにも関係するかもしれません。次回はさらに、この判決が医療・医学界に波及しうる局面を考えてみたいと思います。

山下慎一(福岡大学法学部教授)[福祉][社会保障][情報提供の義務][介護保険][ケアマネジャー]

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