近年、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が一般的になりつつあります。端的にいうと、医療においてデジタル化を進めて効率化しましょうということです。政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」にも、医療DXが明記されています。現在、政府は電子カルテでの情報共有を目指したり、マイナポータルから自分の医療情報を確認したりということを目指しています。
ここに来て、AIの技術も発達してきました。2022年11月に人工知能チャットボットのChatGPTが発表されて、それ以後ますます生活に浸透してきています。今年3月に公開された最新版はかなり自然な文章を適切に構築し、論文作成にさえ用いることができるかもしれないということで、大変話題となっております。毎日興味のある分野の最新文献の要約を送ってもらうことも可能です。文章作成の能力は飛躍的に向上しており、診断書の作成、紹介状の作成など、書類仕事に人が時間を割くことがなくなっていくことは容易に想像されます。カルテ記載についても、音声をそのまま入力するのではなく、所見を伝えると適切なフォーマットでAIが記録してくれるシステムも実装化される日は近いのではないでしょうか。
AIは日々の業務効率化だけではなく、医療界全体においては、情報処理と医療システムの提案にまで発展することが考えられます。空き病床や患者フローが「見える化」され、AIが効率的な医療資源の活用法を提案すれば、それをもとに実績に応じてニーズの高い医療機関に人的支援を行ったり、金銭的な支援を行ったりということもできる一方、過剰な医療の削減がどんどん進むはずです。特に医療介護連携、地域包括ケアシステムにおいて、より経済的に効率化が図られることが想像されます。
コロナ禍では需要供給バランスが崩れたこともあり、行政が入院先を調整しつつ、高齢者施設から入院できなくなったり、慢性期病院から急性期病院への転院が叶わなくなったりということがなし崩し的に起こりました。この患者フローの抑制は、急性期医療の削減という意味では経済的です。個人個人、また医療機関の受け入れ、適切な支援があれば、実現できることが証明されたのです。デジタル化とともに、この流れは推進されるでしょう。医療DXとどう向き合うか、各自、それぞれの施設、地域で、自発的にどれだけ課題を解決できるかが、ポストコロナ時代の焦点となりそうです。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[業務の効率化][医療資源の活用]