新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症となり、感染者数の実態は把握しにくくなったが、徐々に増加してきている様子である。沖縄県では通常医療の提供体制に影響が出てきており、予定手術の延期、通常外来の制限、そして救急外来の制限にまで及んでいる。
現在のCOVID-19の患者は重症者数が少なく、一見、医療提供体制への影響は少なそうに見える。しかし、食事が摂れなくなったり、身動きが取れなくなったり、いわゆるバイタルサインに影響を及ぼさないまでも、入院が必要な患者は生じる。頻度は低いかもしれないが、感染者の総数が増えれば、当然入院患者数も増える。また、医療従事者やその家族(特に子ども)に感染が広がると、医療提供体制の維持を困難にし、医療需要は高まるのに供給能力は減るという、最悪のバランスに陥ってしまう。
世間では、「5類化して感染症を診療する医療機関が増えたはずなのに、どうして逼迫するのか」という声も聞かれるが、そもそもCOVID-19を診療していた医療機関は、元来、COVID-19以外にも様々な疾病や傷害に対する医療を提供しており、患者が集約されがちだという点に目を向けなければならない。
罹患したのがCOVID-19だけで、食事が摂れないので数日観察しておけばよい、といった程度の状態であれば、どの病院でも管理可能と思われる。
しかし、感染後にふらついて転倒し、頭部外傷合併や骨折合併があるとか、以前から膠原病の治療中である、あるいは糖尿病コントロールが不良、認知症で管理が困難、という状況など様々な因子により入院管理を敬遠されがちな患者群は、やはり入院のハードルが高まる。今後、夏の間は熱中症も多く発生するので、発熱患者の診療を難しくする。結局、COVID-19の患者が増えると、従来から様々な患者が集約されていた施設に負荷がかかる構造にあるのだ。
これまでは都道府県が、COVID-19について患者の入院先を調整するなど、交通整理をしてきた側面があった。これも、入院勧告の必要があるからそのようにしていただけで、現在、交通整理の機能はどこも果たしていない状況にある。また日常生活が難しい場合にホテル療養が行われてきたが、こちらも大きく制限され、病院がその部分を補う形になり、より一層逼迫しやすい状況になっている。
入院需要が高まる中では、多少無理をしてでも患者を分散して、基幹病院の機能を温存するような体制を維持する必要がある。公助に頼れないなら、共助体制を強化していかねばならない。
地域ごとに人流やワクチン接種状況の差はあり、医療がどの程度逼迫するかは地域差が大きい。今こそ地域包括ケアの枠組みでの連携を強め、感染状況やベッド状況、外来の状況、介護施設等での状況などを共有し、地域で医療提供体制を維持するよう努める必要があるだろう。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[新型コロナウイルス感染症][地域包括ケア]