こんにちは、山下です。今年もハロウィーンの仮装をしそびれました。
さて今回は、No.5186で構想(空想?)した、マイナンバーの活用による「権利の自動化」について、法的な観点から問題点を考えてみたいと思います。今回も、現時点では架空の話について問題点を考えるという少しトリッキーな議論ですので、ご注意頂ければ幸いです。
「権利の自動化」に関する1つ目の問題点は、皆さんもすぐに思いつかれると思いますが、プライバシーの問題です。
ある人が特定の社会保障の給付条件に該当するかどうかを、システム上でチェックするためには、本人の年齢や家族構成、要介護度、病歴、収入および納税額などといった、非常にデリケートな情報を広範に収集する必要があります。これはプライバシーの観点からすると非常に大きな問題です。現在でも相次いで報道されている、マイナンバーの紐づけミスの問題などを考えると、やはり大変危険だと思われる方も多いのではないでしょうか。
そして2つ目の問題点は、自己決定に関わる問題です。
ある人にとって、ある社会保障給付が利用可能であるとして、その給付を実際に請求するかどうかという問題は、本人が自分自身で決定すべきではないかということです。自らの生活のうちどのような部分を自らの責任で自由に構築し、どのような部分を国家に頼るかという点は、まさに本人の生き方そのものに関わります。そうすると、「権利の自動化」という考え方は、本人の自己決定の範囲を狭め、本人の生き方そのものに国家が介入しすぎるものではないか、とも考えられます。
上記の2点を考慮すると、やはり「権利の自動化」には危険性が大きいように思えます。
ただ私自身は、上記のような問題点に応答することも不可能ではないかもしれない、と考えています。次回は、なぜそう考えるかをお伝えしたいと思います。
山下慎一(福岡大学法学部教授)[社会保障][マイナンバー][プライバシー][権利の自動化][自己決定]