年度末に向けて2024(令和6)年度診療報酬、薬価改定の議論が活発化している。薬価については、9月20日の業界意見陳述を受けて論点も整理されたといえる。
新薬に関する論点は、イノベーション評価と薬価維持の仕組み、開発コストのかかる再生医療等製品を含め高額となる可能性のある製品の価格設定のあり方にほぼ集約できる。これらも実際の仕組みをどうするかについて技術論的な難しさはあるが、他方、後発医薬品については、今後の使用促進、安定供給、薬価下支えなど問題構造が複雑であり、産業育成の観点からも議論の方向性が絞りにくい。
こうした中で、現時点では、バイオシミラー(バイオ後続品、以下「BS」)の議論が、薬価でも診療報酬でもすっぽり抜けているとの印象を持つ。厚生労働省は、2023年4月にBS使用の数値目標を示した。この目標実現に向けて、BS使用促進のための施策に取り組むとしているが、BS普及については、様々な課題がある。
BSは診療報酬、薬価制度上は化学合成の後発薬と同様の扱いが原則であり、たとえば「後発医薬品体制加算」算定要件において計算上BSも数量割合の計算に加えることができる。ただし、医療機関在庫におけるBSの数量は少なく、現行の体制加算は使用促進のメリットになりにくい。また、薬価が高額であったり対象疾患が公費医療であったりすることもあり、BS使用による患者負担軽減のメリットが小さいという課題もある。長期収載品(先行バイオ医薬品)使用における患者負担の議論でも、BSの医薬品としての特性や診療報酬や薬価上の位置づけを念頭に置きながら、BS独自の議論が必要になる(バイオ医薬品では「先発」といわず「先行」というが、厚労省HPでも間違った表記をしている)。
BSは、薬事承認上は後発薬とは別扱いであるし、BS産業も後発薬産業とはまったく異なる。先進国の大半がBS使用促進に取り組んでいるが、いずれの国・地域(EU)でもBSは後発薬とは別扱いである。その理由は、バイオ医薬品が高分子で構造が複雑であるため、製造ロットが異なると製品にわずかながらの違いが生ずるという特性による。違いを一定の範囲に収め、臨床的な差異が生じないようにするためバイオ医薬品の製造には高度な技術が求められ、それはBSでも同様である(臨床的な差異がないことを「同等/同質」という)。
すなわち、通常の後発薬企業が安易に参入できる市場ではなく、海外をみても、多くが大手バイオ企業かバイオベンチャーがBSの開発を主導している。ところが日本の議論をみると、後発薬とBSの違いを理解しておらず、後発薬企業がBS開発することを前提とした議論となっている。そうした議論の中には、中国やインドの原薬メーカーからBS原薬を購入して瓶詰めしたものを製品化している─という理解度の低さのレベルも窺われる。もちろんBS製品の製造プロセスは後発薬とまったく異なる。
海外の議論では、BS普及においてBSへの理解向上とそのための情報提供、啓発が最も重要な施策であるとされている。わが国のBS普及の議論をみると、目標設定のプロセスも含め、そもそも厚労省、中医協を含めたBSに関わる政策関係者がBSについての理解が不十分と感じられる。まずは、政策関係者のBSに関する啓発が求められる。
坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価][バイオシミラーの薬価]