No.5218 (2024年04月27日発行) P.58
守上佳樹 (よしき往診クリニック院長、一般社団法人KISA2隊OYAKATA)
登録日: 2024-04-10
最終更新日: 2024-04-10
時代は令和に入り、医療の「大転換期の大詰め」を迎えている。このような時代の全体思考の一助になればと考え、話題を提供したい。
前回までの①、②は医療側のベースラインの思考であるが、今回は「平常時と有事」の概念を取り上げたい。
地球規模のコロナ禍収束も束の間、日本では本年1月1日に能登半島で震災が発生した。「有事」という言葉を「平常時」の対義語として考えてみる。戦争などの日常とかけ離れた異常事態だけでなく、震災を含む自然災害、システム障害や停電、交通事故、政治的混乱なども含めて平常時以外の場合はすべて「有事」ととらえると、令和の時代は長い長い「平常時」の間に少しだけ「有事」があるのではなく、むしろ「有事」と「有事」の間に束の間の「平常時」があると受け止め、この時代の医療を構築していくほうがよいと考えている。
「平常時」は1+1=2であり、ゆっくりと時代の流れを見ながら、経験をもとに皆で意見のすり合わせをして徐々に合意形成を図ることができる。あまりにかけ離れたスピードで動く者はむしろ規律を乱したり「あの人はちょっと……変わってるね」などと表現されたりするかもしれない。
しかしながら「有事」の際は、情報も少なくこれまでの経験がアテにならない場合が多い。また動ける人材自体が減少し、関係する支援チームが入れ替わりを繰り返す。合意形成プロセスの省略が必要であったり、「平常時」には考えもつかない大胆な権限譲渡が求められたりする。事態に合わせた創意工夫を弾力的短時間に形成し、かつ迅速な行動が必要となる。
「有事」の際のリーダーは1+1=0であったり1+1=10であったりすることを平然と説明し、不確実性の中での作業を非常識なスピードで進め、かつ責任の重圧に耐えるストレスコーピングが必要となる。
「平常時」には単なる「ちょっと変わった人」が、「有事」の際には、半ばバカにされていた様々な人的パイプを駆使してあっという間に強烈な組織を編成して、時代の波を突破していくという姿を筆者はいくつもみてきた。
今後各所で「事業継続計画(business continuity plan:BCP)」が強く求められるようになり、医療介護関係者も対応にせまられるだろう。全国民が「有事」を体験した直後のこのタイミングで、机上だけでないプランを各地域の医療的リーダーたちが考えられるかどうかは、実効性あるBCPの要因として大きいと考えている。「有事」に発生する「需要ギャップ」に対応するため、一般企業以上に、医療介護機関が策定するBCPのほうがハードルは高いと思われる1)。
「『平常時』でも『有事』でも対応できるような」安定した医療クオリティを地域で出せるかどうかは、令和時代の地域医療リーダーシップを出せるかどうかと大きく関連してくると考えている。
【文献】
1)厚生労働省医政局:令和3年度事業継続計画(BCP)策定研修事業 事業継続計画(BCP)策定手順と見直しのポイント①. p3.
https://www.mhlw.go.jp/content/000959290.pdf
守上佳樹(よしき往診クリニック院長、一般社団法人KISA2隊OYAKATA)[BCP][大転換期][チーム医療][KISA2隊]