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【識者の眼】「地域活動のアウトカムをどう考える?」坂井雄貴

No.5223 (2024年06月01日発行) P.61

坂井雄貴 (ほっちのロッヂの診療所院長)

登録日: 2024-05-16

最終更新日: 2024-05-16

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一口に地域医療と言っても、その実践には様々な方法がある。地域住民を診察室や病院で診療することも地域医療であるし、地域の健康教室に出向くこともそうだろう。マルシェで白衣を着て健康相談をしたり、屋台を引いて道ゆく人と出会い対話を重ねたりすることも、広く地域医療と呼ぶ場合もある。ここで気になるのは、地域活動のアウトカムとは何なのか? ということだ。

EBMが重んじられる現代の医療では、医師の活動にもエビデンスが求められる。たとえば公民館で高血圧について講話を行うとして、参加者にアンケートを取ったとする。講話後のQ&Aに多くの参加者が正答でき、満足度が高かったとしても、先々に住民の血圧を下げ、死亡率を低下させることにつながるのだろうか? 地域活動は、そこまでのハードアウトカムを伴わないことが多い。そもそも健康教室に足を運ぶのは健康リテラシーの高い人たちで、実際に情報を届けたい人は無関心層に多いものだ。そうした住民とともに地域の健康をつくりたいと考えたとき、どのような活動が価値あるものとして実現できるだろうか。

医者はキャリアの中で症例報告や学会発表、研究調査を行うことがあるが、そこでは上手くいったこと、あるいは明確なアウトカムが導かれたものが価値を持つことが多い。一方で、地域活動では単回のイベントや短期間の関わりではわかりやすい結果が出ないことが多く、その意義を示しづらいことがある。そんな地域活動に関心がある医師にとって、「社会的インパクト評価」は1つの指標となりえる評価方法として知っておきたい。

「社会的インパクト評価」とは、“事業や活動の短期・長期の変化を含めた結果から生じた社会的・環境的な変化(社会的インパクト)を定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること”とされている。インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム→社会的インパクトの5つの要素で分類・整理するロジックモデルを用いることで、地域活動のアウトプット(どんな対象者のうち何人に、どんな活動を行ったか)に終始することなく、アウトカム(どんな変化が社会に起きたのか)までをふまえて考えることができる。

コミュニティドクターが実践する地域との関わりは単純な一対一の介入というより、長期的なプロジェクトとなることも多い。社会的インパクト評価の考え方を用いることで、地域活動のアウトカムのとらえ方を見直し、プロジェクトそのものの理解や改善につながり、と時にステークホルダーに活動の価値を伝えるためにも活用することができる。地域活動って何の意味があるの? それは医者がしないといけないことなの? そうしたことに悩みや疑問を感じる人にとって、この評価方法は自他の活動について新しい視点を得る機会になるかもしれない。

坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][インパクト評価][ロジックモデル]

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