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【識者の眼】「働くことの意味について(前編)」小豆畑丈夫

No.5225 (2024年06月15日発行) P.58

小豆畑丈夫 (青燈会小豆畑病院理事長・病院長)

登録日: 2024-05-28

最終更新日: 2024-05-28

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最近、働くことの意味を考えることが多くなった。

経済評論家の山崎元さんは最後の著書の中でこう述べている(『経済評論家の父から息子への手紙』2024年、Gakken)。

旧来の(投資を絡めない)働き方は、「自分の時間を売ってお金をえていた」に過ぎない点に注意しよう。これら(医師や弁護士など)の専門職も「自分の時間を売ってお金をえる」時間売りのビジネスモデルであることに変わりはない。古い働き方常識に従うと、成功しても大金持ちにはなれない。つまらない。やめておけ。

私は、山崎さんが「医師になれば裕福な生活ができる」という考えが現代の日本経済の現状からすれば幻想に過ぎないことを端的に言い表していることに感嘆した。この本が発売時にamazon売れ筋ランキング1位になったことを考えると、仕事に対する考え方の新常識はこういったものなのだろう。今年4月から始まった医師の働き方改革も、山崎さんの言葉を借りて言うならば、「自分の時間を売り過ぎるな。それを強いる職場は悪い職場である」ということになりそうである。

しかし、仕事とは「収入のために自分の時間を切り売りする」こと、本当にそれだけなのだろうか?

もう1冊の本を紹介したい。日本初のユング派分析家資格を取得し、後に日本の臨床心理士資格を造った河合隼雄先生と、作家の村上春樹さんの対談(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』1998年、新潮文庫)である。

村上:紫式部はなんのために源氏物語を書いたのでしょうね?
河合:やっぱり自分を癒やすためでしょう。我々は難しい仕事をしているわけですが。それも、ぼくにとっては、ぼくの病いを治すためのひとつの必要なことなんです。
村上:河合先生にとって必要なんですか?
河合:そうです。そういう(心を病んでいる)人にお会いすることによって、ぼくの病いも癒やされていることがたいへん多いと思いますね。この仕事をしてなかったら、ぼくはおかしくなっていると思います。

ここに山崎さんとまったく違う「働くことの意味」が示されている。私は、この違いは、これらの本が出版された時代の違いから生じているとは言いきれない、もっと本質的な意味を含んでいると思えてならない。(後編に続く)〈5月28日〉

注:参照させて頂いた文章は、読みやすくするために著者が小変更を加えてあります。

小豆畑丈夫(青燈会小豆畑病院理事長・病院長)[山崎元河合隼雄

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