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【識者の眼】「これまでの歴史を知ることができるノーベル博物館の移転」渡部麻衣子

No.5241 (2024年10月05日発行) P.65

渡部麻衣子 (自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)

登録日: 2024-09-20

最終更新日: 2024-09-20

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秋になりました。そろそろ2024年のノーベル賞の行方が気になりはじめる季節です。ノーベル財団の発表によると、2024年は、10月7〜14日までの1週間の間にノーベル賞受賞者の発表が行われ、すべての発表は、財団のウェブサイトにおいてライブストリーミングされます。

次の受賞者はまだわかりませんが、これまでの歴史はノーベル博物館で詳しく知ることができます。宮殿の隣に建つノーベル博物館は、さほど大きくはありませんが、ここでしかみられないものがあります。1つは、カフェの椅子の裏にしたためられたノーベル賞受賞者のサインです。最近まで、山中伸弥教授がサインした椅子だけ、ミュージアムショップの入口の上に展示されていましたが、それは山中教授のサインを一目見ようと椅子をひっくり返す人が多発したためだそうです。もう1つは、歴代ノーベル賞受賞者が提供した、研究に関わる私物の展示です。たとえば2008年度のノーベル化学賞受賞者、下村脩博士の提供した持ち手つきの大きな網。海辺で、ノーベル賞につながるオワンクラゲを捕まえている博士の姿が目に浮かぶ展示です。そのほかにも、実験ノートや分子モデル、実験器具などが、エピソードを添えて展示してあり、研究の風景や研究者の人となりを身近に感じることができます。

実は、ノーベル博物館は、今の場所より少し南に移動した海沿いの広い土地に、ノーベル・センターとして移転することが決定しています。移転の計画は長くありましたが、2022年に多額の寄付があり、いよいよ実現に向けて動き出しました。計画の進行を伝える2022年5月4日付のプレスリリースには、ノーベル財団のVidar Helgesen代表(当時)の次の言葉が掲載されています。「私たちは、ヨーロッパにおける戦争の時代に生きています。人権が侵害され、自由な表現が攻撃され、事実や科学が蔑ろにされています。ノーベル・センターは反対の立場に立ちます。センターは、世界を変えた貢献によって、私たちに希望を与え、未来に大きく影響し、人類に大いなる利益をもたらしてきた受賞者の、先駆的で創造的で勇気ある物語を伝えます」(右記QRコード)。ノーベル・センターの開館予定は今のところ2029年です。楽しみに待ちたいと思います。

渡部麻衣子(自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)[ノーベル賞][ノーベル・センター]

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