本稿では日本の医療DXの課題について考える。「日本のサイバーセキュリティの遅れと医療DXの遅れは同源」については、3月の本稿(No.5211)にて紹介した。これは医療機関の多くが技術者を直接雇用せず、業者にすべて委託(丸投げ)しているため、医療機関はITに関する技術を知らず業者任せになり、業者は丸投げをよいことに内部の利便性を追求して基本的なセキュリティ、世界の標準化を顧みなかったことです。
これに対し、技術者の要請、医療機関での技術者雇用の経費要求がされているが、両者に知識がないため、3つの問題が生じている。
1つ目は、「医療機関側は業者、技術者の話を鵜呑みにする」ことである。「匿名化しています」と言われれば、遠隔読影サービスを導入し、画像を出して読影レポートを得る。画像が匿名化しているとそのレポートは返すことができないはずなのに、匿名化責任は医療機関側にあるのに……である。業者側もインターネット経由のオンライン保守を1年目無料、2年目以降有料で契約を取る。安価なデジタル無線通信のLTEを使うと検査機器やルーターのUSBに接続するだけで、医療機関のネットワーク管理者に連絡することなく保守回線をつなげる。これにより医療機関は情報管理者の知らないうちに、複数のインターネット回線がつながった「閉鎖ネットワークの神話」になっている。多くはhttps暗号化通信ではあるが、医療機関内ネットワークの入口が門のない状況であり、サプライチェーン型サイバー攻撃の危険がある。最新のガイドラインでは自己責任でリスク分析をすることになっている。
2つ目は、「日本は世界標準をそのまま導入することとせず独自のものを好む」ことである。独自性のための修正により本来のものから加えられたり、削られたものがある。2010年の医療再生基金の地域連携で使用が要求された日本標準のSS-MIXは世界標準のオンライン通信HL7規格の通信内容文のフォルダー保存形式であり、オンラインよりCDなどの媒体流通を想定していた。医療機関には高価なデータベース購入が不要でよかったが、オンライン通信により修正通信部分が多数の無効ファイルとして保存されている。また、これは入れ物の標準化であり、コード等の内容の標準化ができなかったことと業者の囲い込みのため理想通りには運用されなかった。2025年度から始動する世界標準FHIR基盤は世界的には現状スマホ通信に使用されている。医療機関間通信では最初の事例である。RESTful.apiと呼ばれる新しい流れの中にあり、日本でも消費者端末向けの単純な流れに使われている。今回はサーバ間通信で使用するため、その通信自体は単純化される利点があるが、運用、内容によっては他の参照サーバ間通信や複数回の通信を加える必要がある。そして、セキュリティ上の注意も必要である。
3つ目は、研究基盤にAI、ビッグデータ時代を配慮していないことです。なお、Webサーバ画面にPCから手入力するのは古来の伝票記載と同じである。これは手間がかかり遅く、そしてミスも多い。これでは米国や中国には勝てない。今はサーバ間通信で収集する時代である。項目やコードも日本独自では世界と比較が難しい。人口の少ない北欧では研究分野別に大学が1つ決められているようである。研究発表者も臨床医は少ない。日本の大学病院の医師が臨床、研究、教育の3つをこなすのに苦労する時代は医療DXで変わらなければならない。
近藤博史(日本遠隔医療学会会長、協和会協立記念病院院長)[日本独自][医療DXの課題]