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【識者の眼】「医師の異動からみえるもの」榎木英介

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2025-03-17

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新年度が近い。異動のシーズンだ。医師の異動は4月だけでなく、6月や10月など年度内の場合もあるが、やはり4月の異動が多いだろう。新年度から新たな職場で頑張る勤務医にエールを送りたい。

しかし、医師にとって異動は悩みでもある。最近は減ったとはいえ、医局の力が強かった頃には、急に異動を命じられることもあったと聞く。引っ越しもままならないまま、取るものもとりあえず任地に出向くということもあった。そして今でも、異動前日まで前の病院で働き、翌日から新しい職場で働くというインターバルのない異動が行われている。SNS上では、そうした異動の悩みが聞かれる。

私自身、フリーランスになる前に何度か病院を移っているが、大抵週末を挟む程度で、有給休暇を使い引っ越すことはなかった。特に4月の異動は、引っ越し業者が見つからず、3月中にほとんどの荷物を新しい家に運び、前任地ではがらんどうの部屋で最小限の荷物で過ごしたこともあった。2つの家の家賃を払わなければならず、お金もかかった。

この理由は言わずもがな。人手が足りていないからだ。私のような病理医は、1人診療科のことが多い。1人でないにせよ、ギリギリの人数で仕事をしているような職場だと、休みをもらうだけの人的ゆとりがない。だから異動ギリギリまで仕事をせざるをえない。そうしたギリギリの人員でまわす状態は何かがあればすぐに破綻してしまう。医師の過重労働がなくならない理由でもある。

医師が異動に苦しむのは日本の医療の矛盾、歪みの縮図でもある。

医師がゆとりを持って異動する時間を持つためにも、医師の働き方改革が必要だ。そのためには、やはり急性期病院の集約化やタスクシフトを含めた、ゆとりある人員配置が不可欠だ。また、権利である有給休暇を堂々と取得することも必要だろう。患者さんのため、医局のため、と無理な働き方でなんとか現状維持をしてきたが、それが問題を先送りしてしまった面もある。人員配置の責任は管理職にあるのだから、末端が過剰に適応する必要はない。

いまの若い医師たちは、堂々と休みを取る傾向があるように思う。眉を顰めるむきもあるが、それでいいと思う。そうした一人ひとりの行動が、医師の働き方を変えていくのだ。

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[働き方改革][異動

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