□日本褥瘡学会の褥瘡の定義では,身体に加わった外力は,骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下,あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる,とされている1)。
□つまり,褥瘡の原因は身体の外部からの力であり,褥瘡リスクが高まっている患者本人を思いやり患者の周囲にいる人が褥瘡リスクに気づいて積極的な予防策を取ることが根本的な解決策である。
□在宅現場では,日本人のエビデンスによるOHスケールを基本的な褥瘡発生リスク判定法として活用する。
□褥瘡は予防が大切で,OHスケールを用いてリスクを3段階で判定し,介護力を考慮してベッドマットレスを適応する。
□褥瘡が発生した場合は,原因となっている外力を在宅環境の中で発見し除去する。
□外力には圧力とずれ力があり,圧力への対応はベッドマットレスやクッション,ずれ力への対応は様々な福祉用具を活用し,体位変換や移乗時に発生するずれ力を防止する方法を在宅チームで共有して改善する。
□治療は外力ができるだけ防止できる被覆方法を選択し,褥瘡の時期に応じて外用薬を適宜変更する。
□平成26年度診療報酬改定で,皮下組織に至る褥瘡(筋肉,骨等に至る褥瘡を含む)を有する在宅患者で,在宅医療指導料を算定している場合には,処方箋で創傷被覆材を保険薬局から供給できるようになった。
□身体は床や座面,つまり身体に接している外面から力を受けており,その外力は皮膚や皮下脂肪,筋肉などの柔らかい組織を変形させ体内で複合的な力となって作用している。Khanhらは,実験的に軟部組織内では,骨に近い部分により多くの力がかかることを示した。つまり,皮膚よりも深い部分が先に損傷する可能性を示している。米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:NPUAP)も,急性期では,たとえStageⅠあるいはStageⅡと思われても,深部組織損傷(deep tissue injury:DTI)の可能性を心配すべきであると注意喚起している。
□また,Dinsdaleの実験によると,褥瘡の原因は圧力よりもずれ力の作用が大きいことを示している。ずれ力を防止するために,すべりの良いナイロン製のシートなどが市販されているので,活用するとよい(図1)。
□高齢者660人の全身81項目の褥瘡関連リスク因子を3年間追跡調査し,床ずれ発生危険要因として4つを選び出した。さらに統計処理を行い点数化したことにより,軽度・中等度・高度の3段階に分類することができ,その結果で適切なマットレスを選ぶことができるようになった2)。
□判定法:①自力体位変換,②病的骨突出,③浮腫(むくみ),④関節拘縮の4つの褥瘡危険要因を3段階または2段階で判定する。各項目を合計した総得点(10点満点)が,1~3点で軽度リスク,4~6点で中等度リスク,7~10点で高度リスクと判定する(表1)。OHスケールにより判定されたリスクに加え,介護力を勘案してマットレスの選択を行う(後述)。
□自力体位変換:健康で体を動かすことにまったく問題がない状態を0点,意識不明で自力ではまったく動けない状態を3点とする。そのどちらでもないときに1.5点とする。
□病的骨突出:健康な人の仙骨部は仰臥位でベッドに寝たときにも左右の臀部に守られており,直接外力が集中してかかるわけではない。寝たきりの状態や低栄養が続くと臀部の筋肉は萎縮し,皮下脂肪は薄くなってしまう。この状態になると相対的に仙骨部が飛び出たように見える。これを病的骨突出と呼ぶ。病的骨突出の計測にあたっては『病的骨突出判定器(OKメジャー)』を用いるとよい(図2)。
□浮腫(むくみ):血管外の細胞周囲の水分が正常より多くなり,体内に水分が異常にたまって腫れた感じになった状態である。心不全や腎不全,低栄養のほか,多くの疾患に伴って発生するが,特に原因は問わない。
□関節拘縮:何らかの原因で関節の動きが悪くなっている状態のことである。全身の関節の中でどこか1箇所でもあればリスクありと判定し,1点とする。
□次に自立度を確認する。自立体位変換能力1.5点(不完全ではあるが自分の力で外力を取り除ける)の場合は,できるだけエアマットは使用しないように努力する。
□さらに介護力を判定する。介護力が不足している場合は,もう1つ上のランクの高機能マットレスを選べばよい(表2)。表3に,一般的に介護力が不足している場合のマットレス選択基準を示した。
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