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かかりつけ医機能と在宅医療[私の治療]

No.5281 (2025年07月12日発行) P.34

新田國夫 (医療法人社団つくし会理事長)

登録日: 2025-07-09

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  • 高齢者(65歳以上)人口は2040年代半ばまで,後期高齢者(75歳以上)人口は2060年代後半まで増加すると言われている。85歳以上の高齢者は2035年に1000万人となる。2025年に75歳以上となった団塊の世代は,2040年には90歳以上になる。
    団塊の世代が65歳以上となった2015年は,総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)がスタートした年である。10年後となる2025年からは,団塊の世代が後期高齢者となり,年齢とともに要支援の状態から要介護になっていく時代である。サービス提供体制の充実が望まれるが,既に人口減少社会に突入し,介護人材不足は深刻化している。85歳以上になれば,介護は必要なくても生活のちょっとした困りごとを抱える,そんな高齢者がさらに増加することになる。その一方で,家族と住まい方は多様化し,家族の介護を期待しない,できない時代である。従来,家族を単位として構成された世界から個人を単位とした仕組みへの再編がおのずから生じているとも言える。超高齢時代には平均的な高齢者像では語ることができない多様性がある。解決策は何か。外来への通院が困難な状況となる高齢者の増加に対し,生活や介護体制を整えながら,在宅医療がより機能を果たす形へと移行するのは,当然の帰結と言えるだろう。

    ▶医療者としての対応

    【病院完結型から地域完結型へ】

    病院完結型社会は,病院を起点とした流れの中に在宅医療がつくられた時代でもある。しかし,外来通院者が80歳代後半~90歳代になると通院困難となり,訪問診療を必要とするようになる。訪問診療では最期を看取るケースも多く,病院をまったく利用しない人が増えてきた。また,入退院を繰り返す高齢者もいる。継続的,総合的な医療の実施が必要である。

    かかりつけ医とかかりつけ医機能が混同して語られることが多い。かかりつけ医とは医師の持つ能力のことであり,かかりつけ医機能とは地域で求められる役割を示す。かかかりつけ医は多疾患併存患者と最期まで伴走するための素養を持つ必要がある。患者は年齢を経るにしたがい,多様な病態像と状態像を持つ。既に診断された疾患にとらわれることなく,今後起こりうることも予測し対応する。フレイル,骨粗鬆症,慢性疼痛,認知症,うつ,がん,心不全,腎不全と多様な病態像に関わりを持つことになる。かかりつけ医の定義にあるように,何でも相談でき,最新の医療情報を熟知した,総合的な能力を有する医師として,上記のような高齢者の病態像と状態像を予測する能力が必要である。その上,単独医療機関で診療が完結しない場合の地域連携として,複数の医療機関との連携が必要になる。在宅医療は実際には,病院医療,外来医療から見えない世界があり,在宅医療を行うことにより,かかりつけ医の能力が深化する。臓器別専門の医療は治す,救命する,生存期間を延長するためのサイエンスとして急速な進歩を遂げた。一方で,疾病構造の変化により,治癒不能から終末期までをカバーし癒やす,緩和する,支える医療が求められ,かかりつけ医はその役割を担っている。

    地域完結型の医療の基本はかかりつけ医機能を果たすことである。生活者である高齢者が外来に通院し,やがて通院が困難になれば訪問診療に切り替わる,緊急で入院することになれば,入院時より自宅復帰のためのプランが立てられ,状態像に違いをみせても生活の場に戻ることが入院医療の目的でもある。1人でも暮らせる体制を整えることにより,本人の意思を確認し,本人が希望すれば,自宅に帰ることを最優先にすべきである。これらを実現するために,患者の生活背景を把握し,保健・介護福祉関係者との連携が必要である。その機能は,かかりつけ医とかかりつけ医が所属する診療所機能でもある。どのような状態像で退院が可能か,については入院の数日後には把握する。基本は日常生活動作である。排泄,移動,食事の基本動作,できることとできないこと,できない場合でもその中でできることは何か,できない場合の介入について,多職種協働,他機関共同で解決していかねばならない。

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