株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

ACT(包括型地域生活支援プログラム)[私の治療]

No.5279 (2025年06月28日発行) P.43

伊藤順一郎 (メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ院長)

登録日: 2025-06-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • ACT(assertive community treatment:包括型地域生活支援プログラム)は米国にその起源をもつ,精神科領域における医師,看護師,作業療法士,心理士,精神保健福祉士,あるいはピアスタッフなどを含む多職種チームによるアウトリーチ(訪問)型の生活支援プログラムである。対象は,精神疾患の治療のニーズがあるにもかかわらず,様々な理由で外出が困難であったり,定期的な通院が難しかったりする人々である。そのような人々の中には日常生活が破綻し,家の中が荒廃している人や,身体の健康を害している人もいる。常に強い不安や恐怖を抱え外出ができない人もいる。
    ACTによる支援の目標は,疾患の「治癒」をめざすというよりも,患者が病気や障害を抱えながらも一市民として安心・安全な生活を実現することにある。そのため支援には,症状改善のための薬物療法や心理的支援のほかに,生活維持のためのケア,家族への支援,福祉制度の活用を手助けする支援なども含まれる。そして最も重要なこととして,当事者の言葉に耳を傾け,当事者の価値観を尊重する,安心・安全を育む支援関係の構築がある。

    ▶アセスメントのポイント

    多職種チームでの関わりであるがゆえに,医師の精神医学的アセスメントが絶対ではない。患者がどのような苦悩を持ち,生活の中でどのような困りごとを抱えているのか,それを患者や家族はどのような文脈でとらえているのかということへの理解が,スタッフには最も求められる。また,しばしば患者は様々な心的外傷体験を持つ。それらが現在の生活に落としている影響も知る必要がある。さらに,患者はどのようになることを望んでいるのか,生活を続けていく上での患者の強み,環境の強みは何かを知るということも,アセスメントの重要なポイントである。

    ▶緊急時の対応

    ACTは24時間365日支援可能な体制をとることがデフォルトとしてある。特に夜間の緊急電話体制は患者に安心感をもたらす。緊急時には頻回訪問,時には1日複数回訪問も行い,生活が維持されるようにケアを行う。患者が自分で自分を助けることへの支援が優先され,精神保健福祉法で定められている強制入院は極力回避する。強制入院によって人権が侵害されたり,生活の連続性が遮断されたりすることを防ぐためである。

    残り1,031文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連物件情報

    もっと見る

    page top