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酵素補充療法[私の治療]

No.5271 (2025年05月03日発行) P.42

石垣泰則 (コーラルクリニック院長)

登録日: 2025-05-04

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  • 酵素補充療法(enzyme replacement therapy:ERT)は,先天的に特定の酵素が体内で不足する状態の疾患に対して,酵素製剤を体外から補充し,酵素活性を高めて症状を改善する治療法である。ライソゾーム病に対するERTは1990年代から開始され,早期導入することで症状の改善と臓器障害の進行抑制が期待できる治療法として確立した。ERTは一般に酵素製剤を点滴静注して実施されるが,酵素製剤は高分子のため血液脳関門を通過することができない。そのため,異染性脳白質変性症やサンフィリポ症候群A型のような中枢神経内に代謝異常を呈する疾患では,髄腔内に投与されることがある。
    ライソゾーム病に対するERTは専門医療機関で行われ,患者は1~2週間に1回,自宅から通院の上,一定時間の点滴静注を受ける。ERTは一生涯続ける必要があり,通院負担などが問題であった。2021年,わが国で承認されているライソゾーム病に対する15種類の酵素製剤のうち11種類の薬剤で,在宅で医師の指示のもと看護師による投与が可能となり,在宅ERTが始まった。
    ライソゾーム病はもともと小児科領域の疾患であったが,ERTにより生命予後の延伸が可能となった。その反面,ライソゾーム病患者のADLが低下し,病院内だけで治療が完結できないケースも生じている。具体的には,ファブリー病で重症心不全を呈し,持続的カテコラミン製剤が必要となるケースや,ムコ多糖症,ポンペ病,ゴーシェ病などで,在宅人工呼吸器管理が必要となるケースが存在している。医療従事者には,ライソゾーム病患者の病態をよく把握し,必要なときに適切な援助を行うことが求められている。

    ▶治療の実際

    ERTは,薬剤によって週3回から4週に1回程度の間隔(多くの薬剤は毎週あるいは隔週投与)で実施される。たとえば,グルコセレブロシダーゼの遺伝子変異によりグルコセレブロシダーゼ活性が低下あるいは欠損するゴーシェ病では,イミグルセラーゼあるいはベラグルセラーゼ アルファを隔週で点滴静注する。

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