No.5000 (2020年02月22日発行) P.38
中山健夫 (京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授)
登録日: 2020-02-22
社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットです。その制度は社会保険、社会福祉、公的扶助、保健医療・公衆衛生からなり、人々の生活を生涯にわたって支えるものです。国民皆保険制度は1961(昭和36)年に始まりました。1973(昭和48)年から1983(昭和58)年は、老人医療費無料という時代もありました。1991(平成3)年のバブル崩壊を経て、日本の経済は成熟時代、そして停滞の時代に至ったとされています。一方で、誰もが知るように人口の高齢化と共に国民医療費は増大を続け、2019(令和元)年9月の厚生労働省発表によると、2017年度の国民医療費は43兆710億円(前年度に比べ9329億円、2.2%の増加)、人口一人当たり33万9900円(同7900円、2.4%の増加)となりました。
医療費を考える上での大きな論点の一つが、画期的な効果を持つ高額薬剤の相次ぐ登場です。C型慢性肝炎治療薬のハーボニーⓇ(一般名:レジパスビル・ソホスブビル配合錠)、ソバルディⓇ(一般名:ソホスブビル)の約300万円という金額に多くの医療関係者が驚いたのが2015年、そしてノーベル賞を受賞された本庶佑先生の革新的な研究から実現した免疫チェックポイント阻害薬オプジーボⓇ(一般名:ニボルマブ)にある意味強行された価格の引き下げは記憶に新しいことです。このような状況に対し、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)で「医薬品や医薬機器等の保険適用に際して費用対効果を考慮することについて、平成28年度診療報酬改定において試行的に導入した上で、速やかに本格的な導入をする」方針が打ち出されました。
2019年には白血病などのがんを治療するCAR-T細胞療法・キムリアⓇ(一般名:チサゲンレクルユーセル)の薬価が3349万円と定められ、脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬・ゾルゲンスマは日本での発売が2020年以降に持ち越されたとはいえ、米国での約2億円という薬価が取り沙汰されています。本欄では、日本の医療、そして社会が直面している、限られた医療資源の中で「少しでも良い医療」を追求・実現、そして維持・発展させていくにはどうしたらよいかを考えていきたいと思います。
中山健夫(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授)[より良い医療とは何か:限られた資源の中で①]