No.5000 (2020年02月22日発行) P.31
甲田茂樹 (独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長代理)
登録日: 2020-02-23
最終更新日: 2020-02-18
2019年4月の関係法令の施行で働き方改革は一挙に市民権を得た。働き方改革の二つの肝は労働時間法制の見直しと雇用形態に関わらない公正な待遇の確保である。労働衛生と深い関わりを持つのは前者で、働き過ぎを防ぎ、労働者の健康を守り、多様なワーク・ライフ・バランスを実現することを目指す。企業では、残業時間の上限規制、勤務間インターバル制度の導入、5日の年次有給休暇取得の義務化、フレックスタイム制の活用等で具体的に対応する必要がある。
経済協力開発機構(OECD)データ(2018年)によると、日本の労働生産性は21位ときわめて低い状況である。労働生産性は就業者一人当たりの国内総生産であるため、物作り立国を目指す日本は働く時間を減らせば生産も落ちるというジレンマから抜け出せない。直近の総務省の労働力調査では、2019年4〜11月に月80時間超の残業をした労働者は月平均295万人と法令施行前より減っておらず、本年1月20日の日本経済新聞は人手不足によって管理職にしわ寄せが来ていると分析している。このことから働き方改革は当初期待されたほど過重労働の解消に寄与していないのではと懸念される。
弊所の過労死等防止調査分析センターの解析結果から、過労死の労災事案は脳出血やくも膜下出血の割合が高く、高血圧等の疾病有所見者の多い管理職に長時間残業のしわ寄せがいくことでもたらされる健康影響や心身へのストレス加重などは、労働衛生面でのマイナス要因が懸念される。
働き方改革の導入された背景に、一億総活躍社会の実現に向けて、という狙いもある。これに伴って、定年制の延長や新たな雇用先を求めて高齢労働者が職場で増えているのが現状である。そのため、騒音や温熱などの物理因子や化学物質などの有害因子の許容基準が加齢と共に変化するのか、科学的に検証する必要があるだけでなく、様々な疾病を有し、生理的機能等が低下する高齢労働者が健康的に働ける労働環境を整備するというのは、きわめて大きな、かつチャレンジングな労働衛生上の課題となる。
甲田茂樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長代理)[働き方改革と労働衛生]