古希を過ぎると、健康であり続けるという若い頃には当たり前と思われたことがそうではなくて、努力なしには成し遂げることはできないことが実感として迫ってきている。50年近く医師として多数の患者の診療を行い、健康相談にも乗ってきたが、自分のこれからの健康のことになるとからきし予想がつかない。丁度、日本医事新報から1年にわたって時事評論のコーナーを担当してほしいと依頼があったので、これをきっかけに健康であることについて改めて考えてみたい。
古来より不老不死は、人である以上誰もが切望する究極の願望であったが、叶えられた人は一人もいない。古くは、秦の始皇帝が中国を統一した後、永遠のいのちを欲し、臣下の徐福に命じて不老不死の薬を探させたことが記録として残っているが、結局は49歳でこの世を去っている。これまで長生きの世界記録は、1997年に亡くなったフランス人女性のジャンヌ・カルマンさんで122歳であった。人はどこまで長生きできるかという問いに答えはまだ出ていない。
わが国で100歳を超える人の数は増加しており、2019年には7万人を超えた。しかし、110歳以上になると激減し、140名程度と推定されている。すなわち、100歳と110歳の間には想像以上の越えられない大きな壁があるようだ。わが国の平均寿命は、縄文時代には15歳と極端に短く、弥生、古墳時代と少しずつ延びていき、江戸時代には30歳に達している。平均寿命とは、0歳児の平均余命のことであり、近代に至るまで乳幼児死亡率がきわめて高かったため、見かけ以上に平均寿命を短くさせている。明治に入り、近代医学が取り入れられると平均寿命は44歳になり、終戦後、抗生物質が普及すると平均寿命は一気に60歳に達し、それからは戦後の経済復興と同じく右肩上がりで上昇を続け、2019年には女性が87.3歳、男性が81.3歳になり明治時代のほぼ2倍となり、世界のトップクラスになった。これからは平均寿命が延びるスピードは鈍ると思われるが、100歳に向かってさらに歩み続けることを期待されている。
浅香正博(北海道医療大学学長)[健康]