株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「妊産褥婦のメンタルヘルスはきわめて重要だが、わが国には対応システムがない」久保隆彦

No.5000 (2020年02月22日発行) P.55

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-02-20

最終更新日: 2020-02-19

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜ今、妊産褥婦のメンタルヘルスなのか。

現代の妊婦褥婦は、核家族化による育児未体験と支援者不足や、女性の社会進出によってマタニティハラスメントが助長されてストレスを与えられ、メンタルヘルス障害となりやすい。この障害は母親自身にとどまらず、母子間の愛着形成障害、児の発達障害、虐待、自殺にも繋がる。

児童相談所へ相談される児童虐待数は1999年に1万1631件であったが、2016年には12万2575件と10倍以上に急増した。確かに、2016年に「児童虐待の防止等に関する法律」が制定され、通告が容易となったことも増加の一因ではある。報道では義父の暴力が注目されているが、実際の虐待の加害者の57%が実母であることは特筆すべきである。特に自閉症の母親は虐待しやすい。

以前から「産後うつ」「マタニティーブルーズ」など育児期の母親の精神的障害が注目され、人種に関係なく10〜15%に発症すると言われている。妊娠・育児ストレスによって精神障害をきたすだけではなく、最近は精神疾患既往あるいは有している女性が妊娠する症例が増加している。しかし、周産期に精通した精神科医がきわめて少なく、妊娠が判明し薬を安易に中断し症状が悪化することもあり、不十分な精神科管理で母子にトラブルを起こすことも稀ではない。

2017年から妊産婦死亡に自殺もカウントされることとなったが、従来のわが国の妊産婦死亡と同等あるいは数倍の妊産褥婦の自殺が存在することが種々の研究で判明した。他の自殺と異なり、妊産褥婦は定期的に医療従事者が接触していることから、妊産褥婦のメンタルヘルスに注目することにより自殺を予防できる可能性がある。

したがって、妊娠中から出産後、育児期のメンタルヘルスに留意することはきわめて重要であるが、わが国では妊産褥婦のメンタルヘルスの評価および対応システムがない。産後の健診には公的補助すらなく、メンタルヘルス問題の早期発見、介入がきわめて難しい。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top