新型出生前診断に関する検討会〔母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ。以下、検討会〕が昨年より開催されている。出生前診断をめぐる最大の論点は、検査の精度という医学的問題もさることながら「胎児に障害が見つかった場合に選択的中絶を容認するか」という倫理的問題であろう。しかしながら、これまで2回開催された検討会の論点は、公開された資料を見る限り、倫理的問題よりも急増する無認可施設(日本産科婦人科学会の認可を得ていない、という意味であって違法施設という意味ではない)の方に向けられている。
NIPTの専門家で組織する「NIPTコンソーシアム」が独自に推計したところ、そうした無認可施設の検査実施数は既に認可施設のそれを上回っているそうだ。学会側にもあせりがあるのか、関係者が示した資料は、無認可施設を検査精度という医学的視点から問題視するものとなっている。たとえば無認可施設では「結果が陽性の場合に染色体疾患だと誤認して、確定的検査なしに中絶を選択する妊婦がいる可能性がある」等。この指摘は事実だろうが、認可施設と無認可施設をそのまま比較することはフェアではない。NIPTは高い陽性的中率を持っているが、あくまで非確定検査であり、羊水穿刺や絨毛検査といった確定検査が必要となる。その陽性的中率は有病率によって左右され、有病率の低い若年者では的中率も低くなる。認可施設と無認可施設の決定的な違いは、前者は35歳以上という年齢制限を課している点。そのため認可施設の受検者の平均年齢は38.4歳と高いが、高齢出産が増えたとはいえ、出産の大半は35歳未満であり、そうした若年妊婦は、無認可施設を受検するしかない。すると陽性的中率は必然的に低くなり、確定診断をスキップすれば誤った中絶が増えても当然であろう。
認可vs無認可という不毛の対立軸ではなく、年齢を問わず受検できる体制づくりに向けた建設的な議論を期待したい。
岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[新型出生前診断(NIPT) ]