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【識者の眼】「HPVワクチンのリスク評価を失敗しないために」岩田健太郎

No.5000 (2020年02月22日発行) P.42

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2020-02-21

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先日、ある医師が「HPVワクチンは接種した1万人中○人に重い症状が出ているのでけしからん。あんなものを打つべきではない」という趣旨の見解を述べていた。これはリスク評価の失敗だ。リスクはこのような形で行ってはならない。

この手の失敗はメディアにも多い。先日、雑誌のFRIDAYが高尿酸血症に用いるフェブリク(一般名:フェブキソスタット)を「100人に1人が死亡!」というアオリ見出しで批判していた(2019年12月22日電子版)。

しかし、フェブキソスタットを飲んで死亡した人が100人に1人だったとしても、フェブキソスタットを「飲んだから」死亡したとは限らない。ここに前後関係と因果関係の混同がある。わざとかもしれないけど。

有名なCARES研究ではフェブキソスタット群とアロプリノール群で比較がなされた。中央値で32カ月のフォローの後、3098人のフェブキソスタット群中134人(4.3%)に心血管死亡が発生した。一方、アロプリノール群では3092人中100人(3.2%)が同様に死亡していた。ハザード比は1.34で統計的にも有意差があるから、フェブキソスタットが心血管死亡を増やすことはこのデータから推察される。しかし、「100人に1人が…」という言い方はフェアとは言えないだろう。

HPVワクチン接種の後にいろいろな症状が出る女性はいる。しかし、HPVワクチンが原因なのかというとそうではない。ワクチンの副作用による自己免疫疾患の発生を疑う向きもあるが、何百万人という対象者でのメタ分析でもHPVワクチン接種群と非接種群で自己免疫疾患の発生率に差はなかった(Jiang HY, et al:Vaccine. 2019;37(23):3031-9)。自己免疫疾患以外の有害事象でもたくさんの比較研究が行われ、日本でも同様の研究があるがやはり有害事象の発生率に差は見られていない。

世界の多くの国ではHPVワクチンを積極的に接種しており、女性のみならず男性にも接種している。子宮頸癌や肛門癌の原因たるHPV感染が予防されれば、50年後には子宮頸癌は絶滅種的に稀な癌になることも予測されている。今のままだと日本だけが「先進国でいまだに子宮頸癌が起きている」国として多くの専門家が勉強しに来るかも、という笑えないブラックジョークが現実のものとなるか。そんな悲惨な状況を回避するのが我々専門家の責務であろう。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[HPVワクチン]

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