No.5003 (2020年03月14日発行) P.61
山本啓央 (静岡県立こども病院総合診療科副医長)
登録日: 2020-03-05
最終更新日: 2020-03-05
No.5002「新型コロナウイルス感染症はSARSに類似(3)─中国ガイドラインを踏まえた診断・治療の提案」(菅谷憲夫)では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して早期に診断する必要性を指摘されているが、これに反対する筆者の意見を述べる。
基礎疾患の存在や高齢であることは重症化のリスク因子ではあるが、これらのリスク因子があったとしても、大多数は軽症で済んでおり、早期受診により重症化を予測することは不可能である。さらに、治療法が確立していない現時点で、重症化を予防する手立てはない。
また早期発見が感染拡大の予防につながると指摘されているが、現時点でのPCR検査の感度の低さから症例定義に用いるには限界があり、PCR検査の結果の如何にかかわらず、有症状者は自宅隔離する方がはるかに効果的である。
以上より、現時点で早期発見にメリットは見出せない。
未診断の無症候患者が相当数いる可能性は指摘されているが、それでもなお現時点で本邦でのCOVID-19の有病率はまだまだ低いものと推察される。発症早期においては、検査前確率として、COVID-19よりも普通感冒やインフルエンザの可能性の方がはるかに高い。世界保健機関(WHO)の報告書「Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019(COVID-19)」(https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf)など種々の報告でも、重症群は上気道症状が5〜7日程度あり、その後に肺炎に進展することが報告されており、これは普通感冒やインフルエンザといった比較的、有症状期間が短い感染症をスクリーニングする上で有用となりうる。COVID-19の検査前確率を上げる意味でも、37.5℃以上の発熱が4日以上持続するという厚生労働省の目安は妥当と考えられる。
また、肺炎への進行には発症から5〜7日間を要するため、4日以上の有症状期間を目安とすることは妥当と考えられるが、倦怠感や呼吸困難がある場合には有症状期間に関係なく受診するよう勧められており、4日間待機している間に受診のタイミングを逸し、肺炎が進行してしまうリスクは限定的と推察される。
軽症者の早期受診は、「医療体制の崩壊」「医療機関におけるクラスター形成」といったリスクも内在する。これらが現実となった場合、重症者の治療に支障が出るだけでなく、COVID-19以外で、平時には救命しうる疾患での死者が出てくることを危惧する。
軽症者には厚生労働省の受診の目安を参考にしながら、倦怠感や呼吸困難が出現した場合には速やかに受診できるよう準備を整えつつ、自宅で安静にしていただき、適切な受診行動に努めていただきたい。
山本啓央(静岡県立こども病院総合診療科副医長)[新型コロナウイルス感染症]