No.5011 (2020年05月09日発行) P.19
鄭 忠和 (獨協医科大学特任教授、和温療法研究所所長)
登録日: 2020-04-24
最終更新日: 2020-04-24
数日前、イタリアの著名な病理学者の談話が日本語に訳されて、性差医療情報ネットワーク(理事長:天野恵子)に送られてきた。重症の新型コロナ肺炎による死亡の原因は、新型コロナウイルス感染症に誘発された播種性血管内凝固症候群(DIC)によるものであるとの内容で驚いた。しかし私には納得できる点が多々あった。この頃、新型コロナウイルスに感染していた11件の変死体(路上や自宅)の報道に、死因は肺炎以外の原因による突然死を疑っていたので、重症新型コロナ肺炎の死亡がDICによるとの情報に合点した。11件の変死体の死因は、おそらくDICによって生じた深部静脈血栓による肺塞栓の可能性が大きいと思われる。米国・ニューヨークでも自宅での死亡が3000〜4000人いると報道されていたが、その中に血栓塞栓症による死亡がかなり含まれているのではと推測する。新型コロナ肺炎の重症例は急速に悪化して死亡し、多臓器不全例も多いと聞く。DICによる血栓塞栓症が原因であれば、これらの説明も可能である。
また新型コロナウイルス感染症は肺炎だけでなく心筋炎の発生もあり得るのではと推測する。新型コロナ肺炎の予防に3密(密集、密閉、密接)を避けることは必須と言われている。心・血管エコー図の検査は密閉・密接で施行するので、感染のリスクが大きく、検査室の汚染も問題で、現在、新型コロナ肺炎の心・血管エコー検査はほとんど施行されていないのが実情と思われる。また剖検例の記載もないので、深部静脈や心臓内の血栓形成については不明である。DICの発生例で心筋炎の合併があると、心筋璧運動の低下も重なり心内血栓は形成されやすい。その結果、全身の各臓器に血栓塞栓を引き起こし、多臓器不全を生じることも推測できる。新型コロナウイルス感染症例で下肢切断の症例も報道されていたが、これは心内血栓による下肢動脈塞栓で説明できる。
新型コロナウイルスの感染で敗血症が生じることは生体防御機構からも容易に想像できる。敗血症になると全身の血管内皮に微小血栓が形成され、微小血管障害が生じて、肺胞の毛細血管でのガス交換は低下する。微小血管障害の画像診断は困難で、初期の循環器の異常が微小血管であるため診断は見落とされていることが推察される。しかし、深部静脈血栓や心内血栓の検出はルーチンの心エコー図で十分可能であるので、重症新型コロナ肺炎の患者に対してD-ダイマーを含めた血液凝固系の検査と心・血管エコー図の検査が強く望まれる。
DICの診断ができれば、抗凝固療法により症状を劇的に改善することも期待できる。そして血栓症の予防は新型コロナ肺炎治療の基本になる。現在、重症の新型コロナ肺炎の治療で、人工呼吸器の不足は大きな問題であるが、DICの診断ができれば人口呼吸器の使用を減少できる可能性がある。そのためには重症の新型コロナ肺炎患者で血液凝固能が亢進し、DICの状態であることを証明する必要がある。第一線の診療現場で活躍されておられる医療従事者が、DICと血栓塞栓のエビデンスを証明できれば、治療方針は大きく転換し患者救命に直結すると思われる。もし、その事実を確認できれば、日本だけでなく世界中の新型コロナ肺炎患者に福音をもたらすであろう。
前述のエビデンスを証明するために、果敢にトライしてくれる医療従事者の出現を切に期待したい。
鄭 忠和(獨協医科大学特任教授、和温療法研究所所長)[新型コロナウイルス感染症]