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【識者の眼】「本当の“説明と同意”とは何か─インフォームド・コンセントを再考する」渡部欣忍

渡部欣忍 (帝京大学医学部整形外科学講座教授、帝京大学医学部附属病院外傷センター長)

登録日: 2025-05-01

最終更新日: 2025-04-30

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医療行為におけるインフォームド・コンセントとは、医師や看護師が医療行為についてわかりやすく説明し、患者さんがそれを十分に理解・納得した上で同意するというプロセスを指します。もちろん、理念としては、まったくもって正しく、医療者として異論はありません。……が、現実はどうでしょうか。

たとえば、整形外科の骨折手術。手術説明書には、手術の必要性や方法だけでなく、ありとあらゆる合併症が記載されています。出血、感染、創治癒不良、疼痛、神経・血管・腱・靱帯損傷、臓器損傷、術中骨折、骨癒合不全、異所性骨化、CPRS、DVT・PE……最近では「非閉塞性腸管壊死」まで追加されました。これらを、専門用語を避けて説明しようとすれば、膨大な時間と労力を要します。頑張って説明しても、どこまで理解して頂けたかは、確認テストでもしない限りわかりません。

30年前、筆者が外傷fellowとして米国の病院で研修していたとき、手術室前でchief residentが慌ただしく同意書にサインをもらっている光景を見ました。「この手術をしても症状が改善する保証はありません」と明記された一文を見て、「さすが訴訟社会、米国だ」と感心した記憶があります。ところが、現在の日本でもその風景はめずらしくなくなりました。

さて、この“細かすぎる説明”は本当に患者さんのためでしょうか? 本音を言えば、手術や治療の核心部分を除いて、多くは「後から文句を言われないための保険」。医療訴訟における説明義務違反やクレームへの対策……それが本来の目的になってしまっているように感じます。

もちろん、これは医療に限った話ではありません。近年はあらゆる契約で“同意”を求められます。画面の「同意する」ボタンをクリックしながら、誰もが「本当に読んでいるのか?」と思いつつ、流れ作業のように進めているのではないでしょうか。

とはいえ、医療行為のリスク説明が重要であることに変わりはありません。だからこそ、私たちは“量”ではなく“質”を追求すべきです。重大な合併症は丁寧に、それ以外は簡潔に。説明動画や電子ツールを用いて、「伝わる説明」を実現する工夫が求められます。特に外傷診療では、術前に患者さんとお話しできる時間は限られています。その中でどう説明を効率化し、かつ的確に伝えるか……この課題に、AIやロボティクスの力が使えると思います。

AIによる説明内容の個別最適化、人型ロボットによる説明の代理や補助など、技術は既に医療現場の足元に届きつつあります。私たちの仕事を奪うのではなく、「伝える質」を高めるパートナーとして活用すべき時代が来ているのです。

結局のところ、インフォームド・コンセントの本質とは、“紙の厚み”ではなく“伝わったかどうか”、そしてその理解が生む“安心感”。それを支えるのは、医療者の工夫と、テクノロジーの適切な力添えなのだと思います。

渡部欣忍(帝京大学医学部整形外科学講座教授、帝京大学医学部附属病院外傷センター長)[整形外科医][インフォームド・コンセント

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勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
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