No.5012 (2020年05月16日発行) P.58
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科副医長)
登録日: 2020-05-08
最終更新日: 2020-05-08
*この記事は2020/05/04時点での情報に基づいて作成しています
現時点では、妊産婦が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染しやすいとか、感染すると重症化しやすいという報告はありません。今までの報告では、妊産婦であっても非妊娠時と同等の感染・重症化リスクだと考えられています。米国疾病予防管理センター(CDC)は、COVID-19のハイリスク群に妊産婦をいれていません(一般的には妊娠中は肺炎になると症状が重くなりやすいため注意は必要です)。
また、妊娠中の感染によって胎児の奇形リスクが上昇するという報告もありません。母体への感染によって胎児への垂直感染が疑われる例が中国から数例報告(出生児の血漿IgM/IgGが陽性:JAMA March26,doi:10.1001/jama.2020.4621, doi:10.1001/jama.
2020.4861)されていますが、垂直感染するかどうかはいまだ議論中です。感染母体からの母乳からウイルスの検出報告はなく、CDCや世界保健機関(WHO)では感染中でも接触予防対策(ガウン、手袋、手洗い等)をしながら授乳してよいとしています。日本では施設によって症状がある間は完全ミルクなどを推奨するところもあります。
日本では、風邪症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合や、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合、帰国者・接触者相談センターへ相談いただくようになっています。
*注釈:2020/05/07現在:相談センターへの連絡の目安の変更が検討されています。妊娠中の方は発熱や息苦しさがあれば当日に連絡するよう変更される可能性があります。
米国産婦人科学会のアルゴリズム1)では、感染を疑う症状があった場合、
①重症度の評価を行う:呼吸困難等がある場合は、集中治療ができる施設へ紹介/搬送する
②リスク評価を行う:高血圧・糖尿病・喘息・心臓疾患などのリスク因子があるか確認し、リスクがある場合は胸部レントゲンまたは血液ガス検査を行う。必要があれば(腹部遮蔽をして)胸部単純CTを施行する
③低リスクの場合:自宅療養にて症状を管理モニターする
という流れになっています。推定胎児被曝量は胸部レントゲン撮影0.01mGy以下、胸部単純CT0.06〜0.96mGyと低く、検査によって奇形リスクは上昇しないと考えられています。臨床的に必要であれば胸部レントゲン検査・単純CT検査を行ってください。妊娠後期の感染妊婦の症例報告では、胎児ジストレスや早期破水などの症例もあるため、産婦人科による胎児状態の評価も必要となります。かかりつけ産婦人科へもご相談ください。
*日本産科婦人科学会ガイドライン2017では「50mGy未満では奇形発生率を増加させない」と解説している。
非妊娠時と同じく、COVID-19は対症療法が中心となります。二次感染等を治療する目的で抗菌薬を使用する場合は、セフェム系やペニシリン系の抗菌薬は妊娠中や授乳中でも安全に使用可能です。解熱薬については、妊娠中はアセトアミノフェンが第一選択です。授乳中は、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬) も使用可能ですが、NSAIDはCOVID-19の悪化リスクが以前に指摘されており、なるべくアセトアミノフェンを推奨しています。アビガン(一般名:ファビピラビル)は妊娠初期に催奇形性があるため妊娠中は禁忌です。男性の精液へも薬物が移行するため内服後は7日間避妊が必要です。
<学会/公的機関からの公式発表>
・日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版)」2020 年 4月7日
・公益社団法人日本産婦人科医会、妊産婦のみなさまへ「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について(7報)」2020年 4月 8 日
[https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/200408.pdf]
・厚生労働省「妊婦の皆様へ」
[https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000625054.pdf]
【文献】
1)American College of Obstetricians and Gynecologists. Outpatient Assessment and Management for Pregnant Women With Suspected or Confirmed Novel Coronavirus (COVID-19). [https://s3.amazonaws.com/cdn.smfm.org/media/2263/COVID-19_Algorithm5.pdf]
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科副医長)[新型コロナウイルス感染症]