株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「アジアが主導する癌の臨床試験の確立」松田智大

No.5014 (2020年05月30日発行) P.68

松田智大 (国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)

登録日: 2020-05-15

最終更新日: 2020-05-15

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

胃癌や肝癌、胆道癌など、アジア特有の癌が存在する。臨床試験において「グローバル市場」が欧米主導となると、そうした特有の癌が注目されないだけではなく、自国での試験が遅れ、結果として新薬の承認も遅くなる。アジアが主導する、アジアのアンメットニーズに合った新薬開発が必要だ。

厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、アジア各国の薬事規制当局とMOU(覚書)の締結を軸として協力体制を構築している。このような癌新薬開発の分野では、企業ではなく医師が中心となって、医療上特に重要性の高い新薬の治験を「医師主導治験」として実施する必要がある。

国立がん研究センターでは、東アジアの癌新薬開発における先端医療機関と連携して、臨床試験グループで国際共同試験を実施することに本腰を上げている。国立がん研究センター中央病院を含む、中国・香港、台湾、シンガポール、韓国との5医療機関で構成するコンソーシアム「Asian Oncology Early Phase 1 Consortium(AsiaOne)」による、欧米と同時の国際共同早期臨床試験(フェーズ1治験)の実施は、まさにその一例である。国立がん研究センター東病院が主導するLC-SCRUM-Asiaは、肺癌にかかる個別化医療の確立を目指して、遺伝子スクリーニングの基盤をアジア各国へ拡大中である。

また、希少癌の分野では、そもそも対象となる患者数が不十分であり、治験が成り立たない。RARECAREnet Asia研究の結果、日本での希少癌の割合は全体の16.4%であり、罹患数は、およそ年間1万6000例である。国内だけでは対応できない信頼性の高いエビデンス構築のためには、アジアでの連携が必須である。

現状、治験実施体制が未整備である、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアといった国に対しても、それぞれの国の国立がんセンターや、腫瘍病院に対して、治験実施体制の整備支援と、教育研修の提供をしつつ、ネットワークを強固なものにする必要がある。

松田智大(国立がん研究センター企画戦略局国際戦略室長)[アジアの癌医療研究連携]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top