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【識者の眼】「グリーフケアを広めよう」垣添忠生

No.5014 (2020年05月30日発行) P.61

垣添忠生 (日本対がん協会会長)

登録日: 2020-05-16

最終更新日: 2020-05-15

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前回(No.5011)、本稿で「在宅医療」について触れた。それと密接に関連するグリーフケア、グリーフワークについて記したい。

1950年当時、日本人の8割は自宅で亡くなっていた。家族に囲まれて亡くなり、亡くなった後、遺体が冷たくなり、やがて死後硬直が起きることを遺族は詳細に体験してきた。

国民皆保険制度の導入とともに、日本人の死を巡る状況は一変し、現在は7割の人が病院で亡くなっている。時には、医療措置のために家族は病室外に出され、亡くなる瞬間に立ち会えないといった事態も生じている。死が密室化している、とも言えるだろう。

患者が病院から死亡退院すると、遺族は葬儀とか死後手続きに忙殺されるが、数週が過ぎた頃から、強い悲しみ、喪失感と直面することになる。一方、病院側は、医師や看護師が「あの方の遺族はどうしているだろう」と気になっても、次の入院患者のケアに携わらなくてはならず、遺族ケアの余裕はない。

私自身も13年前に妻を看取った後、最悪の精神・肉体状況を経験した。しかし、私はグリーフケアの論文も本も目を通していたので、他に救いは求めず、筋トレや山登り、居合など未知のことに挑戦して、つまり自分で自分にグリーフケアを続けて、一年がかりで見かけ上、普通の生活に戻ることができた。

一般の方はそうはいかない。そこで、誰でも、特に高齢者は自分の死の状況を想像し、さまざまに準備することがまず必要だと思う。その意味で、欧米で中学高校の学習カリキュラムの中に「死の準備教育」を取り入れていることは一考に値する。もう一つの解決策は、遺族会に入ることだろう。さまざまな苦しみ、悲しみを体験した会員が、新会員の悲しみをひたすら傾聴してくれるので、遺族は立ち直るきっかけを比較的得やすい。

現在の保険医療制度は本人のための制度であり、遺族ケアは対象とされない。しかし、例えば毎年20万人を超す人が癌で配偶者を亡くし、苦しみ抜いている事実を考えると、たとえ自費でも、「当院では希望があれば、遺族ケアを提供します。一時間、○○円…」といった院内掲示からスタートすることも考えられる。なかなか表立った意見としては出てこない話だが、遺族の苦しみにも眼を向けたいものである。

垣添忠生(日本対がん協会会長)[#遺族の苦しみ]

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