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【識者の眼】「エジンバラ産後うつ質問票(EPDS)のピットフォールと利用法」久保隆彦

No.5014 (2020年05月30日発行) P.66

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-05-19

最終更新日: 2020-05-19

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EPDSは産後うつをスクリーニングする簡易ツールとして国内外で使用されている。しかし、EPDSには落とし穴があることを知っておく必要がある。

EPDSは従来対面で妊婦に見せず採点するものであるが、わが国で最初に導入した際に対象が大規模であったため、妊婦に手渡し自書式で書かせたものを採点した。このため、その後のわが国のほとんどのEPDSは自書式となった。しかし、妊婦はEPDSの「うつ」と書かれた用紙あるいは内容から、回答によっては自分に問題ありと評価されることを危惧し故意に事実とは異なる回答を行い、正しい評価ができないことがある。したがって、EPDSは点数が高いほど問題があると評価するのだが、逆に0点にも注意しなければならない。

現在、産婦健診の評価として「EPDS 9点以上」「項目10の自傷にチェックがある」を抽出基準としている市町村が多い。「うつ」の基準は13点だが、スクリーニングカットオフとして9点としている研究が多いためである。確かに高得点が問題であることは間違いないが、8点以下でも注意しなければならない。EPDSは10項目からなるが、項目1・2は快感喪失因子、項目3〜5は不安因子、項目6〜9は抑うつ因子、項目10は自傷因子と4つのカテゴリーに分類される。あるカテゴリーにチェックが入っている場合には、その点に特化してさらに問診することでメンタルヘルスの問題に気づくことがある。産後1・6カ月の快感喪失因子のチェックは愛情の欠如、不安因子のチェックは怒りと拒絶から産後1年の虐待を示唆するとの研究もあり、因子別の評価は重要である。

EPDS以外の問診で総合的に評価し、異常ありの場合はNICE(英国国立医療評価機構)の「うつ病」「不安障害」の2項目質問票で異常を認めれば、精神科医への紹介を躊躇しない。EPDSの総合点数のみでは精神的問題を見過ごし、せっかくの産婦健診の機会を無駄にすることになることを肝に銘じなければならない。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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