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【識者の眼】「小児期発症慢性疾患患者のトランジション、小児科医が準備すること」石﨑優子

No.5016 (2020年06月13日発行) P.61

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-05-25

最終更新日: 2020-05-25

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小児期発症慢性疾患患者の小児型医療から成人型医療へのトランジション(transition)は、小児医学が進歩し慢性疾患の生命予後が改善したことにより生まれた課題である。米国では1980年代から議論が始まり、1993年に米国思春期学会、1996年に米国小児科学会が相次いで声明を出した。トランジションとは慢性疾患を持つ思春期・若年成人患者が、小児中心型医療から成人中心型医療に移るための医学的、心理社会的、教育的・職業的ニーズに配慮した多面的、能動的なプロセスであり、転科(transfer)はトランジションの一つの構成要素とされている。当時の声明や論文では患者の自立と教育・就労、心理社会面への配慮、成人科への能動的な移行などがキーワードとなっている。しかし、昨今、国の内外ともに重い身体障害を持つ患者や移行の意思を確認できない重度の知的障害を持つ患者もトランジションの対象とされ、「小児科から成人科に移行する」「小児科と成人診療科の両方にかかる」「小児科に継続して受診する」場合のそれぞれのトランジションのあり方が論じられている。そしていずれのあり方が選択されるかは疾患によっても地域性によっても変わる。

ならば小児科医がトランジションに向けて心がけることは何か。医師—患者関係において小児科医が行う準備は、患者の知的障害の有無と成人科への転科の有無により明確化できるであろう。知的障害がある場合は患者の自立に向けての教育や指導は少ないが、患者が年齢を重ねるにつれて担当する医療者や監督者が交代するため、医療情報のサマリーや福祉制度の紹介が中心となる。一方、知的障害がない場合には、小児科で診療を続けるのか成人科に移るのかを問わず、患者が自分の疾患を知るための疾病教育とセルフケア・スキルの習得、そして教育的支援や就業支援が必要になる。いずれの場合にも成人期の疾患のプロフェッショナルである成人科医の理解と助言・協力とを求めることが望まれる。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[小児科医]

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