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【識者の眼】「16年間の経過観察でPSA検診に確実な癌死低下効果」伊藤一人

No.5021 (2020年07月18日発行) P.65

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

登録日: 2020-06-25

最終更新日: 2020-06-25

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今回は、No.5011で指摘したPSA検診に批判的な6つの意見のうち、3つ目の「PSA検診の死亡率低下効果を検証した研究は、相反する結果が出ており、死亡率低下効果は証明されていない」との反対意見の問題点を解説します。

厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班は2008年に「有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン」を出し、厚生労働省がん研究助成金「がん検診の評価とあり方に関する研究」班は2011年に、欧州と米国の無作為化比較試験(RCT)の2009年の結果を受けて更新ステートメントを出しました。両勧告の結論は、欧州のRCT(ERSPC試験)と米国のRCT(PLCO試験)は、それぞれ死亡率が低下する、低下しないとの相反する結果が出ているため、前立腺がん検診を「Ⅰ:死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない」と評価しています。

しかし、その後にスウェーデン・イエテボリで実施されたRCTの14年間、ERSPC試験の16年間の経過観察で確実な癌死低下効果が、しかも優れた検診効率で得られることが証明されました。さらに死亡率低下効果がないと結論づけたPLCO試験は、対照群(非検診群)の約90%が実際はPSA検査を受けてしまった(コンタミネーションが極めて高い)などの科学的な問題があり、癌検診施策を決める際の参考にならない研究と評価されました。そのため、旧厚生労働省研究班が出した約10年前の両勧告は科学的整合性を失っています。また、前立腺癌検診の有効性を検証したシステマティック・レビューが2018年に報告されています。既存の5つのRCTをまとめて評価を行ない、検診実施による死亡率低下比率は0.96(95%信頼区間:0.85〜1.08)であり、PSA検診の前立腺癌死亡率低下効果はなかったと結論づけています。しかし、5つのRCTのうち、信頼できるRCTは欧州のERSPC試験のみで、他の4つのRCTは大きな研究計画・遂行上の問題があることから、間違った結論を導いています。

エビデンスが激変しているにもかかわらず、10年前の古い見解を基に評価することは不適切ですので、日本泌尿器科学会、日本医師会は共同で厚生労働大臣宛にPSA検診推進の要望書を提出することを各理事会で決定しました。

伊藤一人(医療法人社団美心会黒沢病院病院長)[泌尿器科における新しい問題点や動き]

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