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【識者の眼】「妊婦健康診査(妊健)の公費負担の全国格差」久保隆彦

No.5023 (2020年08月01日発行) P.60

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-07-13

最終更新日: 2020-07-13

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妊健は妊娠中の母体・胎児管理には必須であり、定期的な妊健受診のためには経済的負担を補う公費負担はかかせない。我が国の妊健の公費負担は1969年に開始され、最初は2回だったが、2007年からは5回、13年からは14回程度に増加し、ほぼ全ての妊健をカバーするようになった。この14回は、初期から妊娠23週までは4週間毎、24週から35週までは2週間毎、36週から分娩までは1週間毎の妊健が通例であることから算出したものである。

しかし、この公費負担は妊健事業の主体である市町村が支出する同額を国から補助される制度である。したがって、市町村の支出額が多いと妊健補助額は多く、少ないと少なくなる。多くの人々は妊健の公的補助額は全国均一だと勘違いしているがそんなことはない。そこで私は、母子手帳改訂作業に参加していた当時、全国格差があるのではないかとの疑問を厚生労働省母子保健課に投げかけたところ、全国調査を実施し、各市町村の公費負担額を毎年公表するようになった。

2018年4月時点で、全国1741市町村のうち公費負担額を公開している1673市町村の総妊健補助額の全国平均は10万5734円で、9万円以上が1537市町村(91.9%)であった。都道府県で平均してみるとその格差は歴然であった。ベスト3は、石川県13万7813円、福島県12万9978円、長野県12万7026円であった。ワースト3は神奈川県7万1417円、東京都8万6742円、山梨県8万8580円であった。石川県と神奈川県の差は6万6396円もあり、神奈川県の公費補助は石川県の約半分に過ぎない。上位の都道府県では妊健に関わる本人負担はほとんどない。

妊健費用は自費診療であり、都会が高く、地方が安い傾向があるが、公費負担は逆に都会ほど安い。以前は最下位であった大阪府は維新の会のメンバーが首長になったことを契機に増額され、現在は11万6309円と全国平均を上回っている。これは市町村の首長の政治的判断が公費負担額を左右することを如実に示している。妊健の経済的負担を理由に妊娠を躊躇する女性も多く、少子化が大きな問題となっているにも関わらず母子への金銭的な配慮が十分になされていない地域がある。公費負担額が少ない都府県の妊娠に最も適した若い世代の妊婦の経済負担は大きい。全国全ての妊婦が安心して妊健を受けられるようにすべきであり、公費負担額が少ない都府県の政治家ならびに市町村の首長の早急なる対応を強く希望する。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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