No.5026 (2020年08月22日発行) P.62
草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2020-07-27
最終更新日: 2020-07-27
今春、ひっそりと日本専門医機構の総合診療専門医に関するHPにて、以下の文言が付け加えられた。「2019年度版研修手帳に含まれていた経験省察研修録には、目標が細かく設定されているもの(タイプA)と、大枠(総合診療の7つの資質・能力)を示して自律的な学修を促すもの(タイプB)が存在し、混乱を招く結果となっておりました。これを受けて本機構の総合診療医検討委員会で審議致しました結果、タイプAはタイプBに包含することが可能であることから、2020年度研修開始の専攻医から経験省察研修録を自由度の高いタイプBに一本化することになりました」
これは、総合診療専門医の在り方を決定的に変える実質的な制度変更であり、6月のプログラム統括責任者会議で知った指導医に大きな衝撃が走った。「総合診療は一つの専門領域であることを放棄したのか?」「専門医像を現場で指導医と学習者が考えるというのは研修制度とは言えないのではないか?」という深刻なつぶやきがSNS上に溢れた。
概説すると、タイプAは総合診療専門医に求められる資質・能力を明示化した研修目標を設定し、日常診療の経験を省察しながら専門医を目指すシステムである。タイプBは大枠の7つの能力を提示するに留め、地域や医療機関で自ら課題を発見し、その課題に必要な能力を自ら学ぶ「自律的に学修する」ことを基本とし、指導者との対話で「能力は何か」を考えることを求めている(詳細はhttps://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2020/02/portfolio2019printver3_1.docxのp34-49)。
タイプBは成人学習理論や構成主義的な学習姿勢としては理解できる。しかし、日本の医療の現場では総合診療が展開されるフィールドが、その領域の自覚を持つ指導者や診療環境で構成されているとは言い難い。指導医は「総合診療とは何か?」を悩みつつ学ぶ途上にあり、専攻医は総合診療への無理解の多い現場でアイデンティティの確立に悩みながら学んでいる。それ故、タイプBが活かされる学習環境に日本はまだない。タイプAは細かな行動目標まで提示された古いスタイルではあるが、日本に総合診療という領域が育つ当分の間はこうした丁寧なガイダンスを利用しながら、診療現場の中にある総合診療を意識し経験を深める方が効率的ではないだろうか? そして、時代の変化や地域によってタイプAを改定し洗練させることが日本の総合診療の発展につながるのではないだろうか? 「神は細部に宿る」という格言にあるように、専門研修の質はこうしたことに左右されるのだ。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]